職人全員一人親方労災加入。
先日、とある社労士事務所から建設業界の労災の習慣について質問がありました。なんでも、内装の職人さんが従業員を雇うことになり、社会保険等の制度整備をするにあたって、社労士事務所に相談しに来られ、労災をどうするかと問うと、経営者(親方)はもとより、従業員も全員が土建組合に入って1人親方特別加入の労災保険をかけると言われたそうです。私を含め、事業主は労災保険の対象とならないので、現場で作業員として働くなら、1人親方特別加入制度の労災に入るべきのは当然なのですが、従業員までその保険に入るなんて聞いたことがないと、その事業主に言ったところ、怪我をしても元請けが労災を使いたがらないので、違う現場で怪我をしたことにして1人親方保険を使うんです。と答えられたとのこと。それを聞いた社労士さんからビックリして私のところにかんな慣習があるのか?と電話がかかってきました。
元請けの労災は使えない。
社会保険加入の手続きのサポートをされている社労士さんから、建築業界の常識ってそんな事になっているんですか?と訊かれて、私としては、「労働災害保険は現場で働く職人を守る最低限の保障であり、元請け責任において加入するものなので、そんなバカなことをする必要は無い。」とキッパリと答えておきましたが、もしも怪我をした時に労災を使ってくれと元請け会社に言うと嫌われて、仕事がもらえなくなるからそんなことはできません。とその内装職人の親方は言われていたそうです。もう20年以上前になりますが、、私が大手ハウスメーカーの下請け大工として働いていた頃は確かにそんな風潮があり、少々では労災を使えない、と言うよりも労災を使うことはできてもその後は干される雰囲気がありましたし、実際に弟子の大工が労災を使って、何度も呼び出されて仕事にならなかった覚えがあります。しかし、それから随分と時間が経ち時代は令和へと変わったのに未だにそんな理不尽なことが行われているとは思いもしませんでした。
誰か死ねば良いのに。。
そんな相談を受けて、私としては、こんな事だから建築業界に若者が入職しないのだと、さすがにイラッとして、「人を人とも思わない、職人を道具としか見ていないような、そんな元請けの仕事などやめてしまえ、技術だけあれば職人不足の今の時代、いくらでもまともな仕事ができるし、まともな元請け会社はいくらでもあるから紹介します。」とまで社労士さんに言いました。しかし、その内装職人の親方は「今の仕事、現場でそれなりに満足しているし、従業員の分まで1人親方の労災保険に入るのは確かに負担だけど、ことを荒立ててまで動きたくない。」と私の申し出は断られました。ただ、それなりに納得できないし、憤りも感じていたようで、「誰か現場で人が死んだらいいのに。そんな大事故が起こったらこの元請けも少しは改善されるだろうと思いながら働いていた」と口にされていたとの事でした。
親が泣いて止める職業。
現在、私の周りには、職人を正規雇用して建設業以外の他業種に負けないような社会保障をしっかりと職人にも与えて、若手職人の育成に取り組まれている経営者がたくさんおられます。当たり前ですが労災が起こったら知らんふりをするような工務店経営者は見当たりません。一般社団法人職人起業塾の活動は職人の社会的地位の向上をミッションに掲げて若手職人の教育、育成を事業の中心にしているので、そこに共感してくれた人ばかりが私の周りに集まっているのは当然と言えば当然ですが、建築業界全体で見ると、大手ハウスメーカーを筆頭にまだまだそんな意識を持っていない事業者が圧倒的多数なのが現状のようです。これでは、若者が職人になりたいと言い出すと、親が泣いて止めるのも致し方ないのかと思ってしまいます。このところ、新型コロナの影響による建築市場の先行き不透明感が大きくクローズアップされておりますが、市場の縮小よりももっと確実に、深刻に職人不足は進行しています。そして、他業種に比して比較的コロナの影響が顕著に現れなかったこの業界に若者が集まってくるチャンスでもあると私は思っており、今こそ安心して若者が安心して、そしてやり甲斐と未来への希望を持って現場で働ける業界に変わるべき時だと思うのです。
職人に目を覚ませろ。
情報革命が進み、誰でも自由に思ったことや感じたことを発信できる世の中になり、時にヒステリックだと思ってしまう位、法令遵守、コンプライアンスにうるさくなった今の世の中にあって、建設業界だけが未だ深い闇の中に閉ざされている理由としては、短期決算での利益重視に偏った、販売営業会社に成り下がった大手ハウスメーカーやビルダーの今だけ、金だけ、自分だけ思考がはびこっているのはもちろんですが、絶望的な若手不足に陥っているにもかかわらず、いつまでたっても業界の改革が進まないもう一つ重大な理由は職人の意識の低さというか、諦めにも似たセルフイメージの低さがその大きな原因だと思うのです。ただ毎日安心して飯が食えればそれでいい、家族と不自由なく暮らせれば満足だ。と、未来を見ることなく、自分の可能性に目を閉ざし、誇りを忘れてしまった職人たちはもう一度、自分達が生み出せる価値に気付き、道具や奴隷の様に働く為に生まれてきたのではないと、目を覚ますべきだと思うのです。そして、忙しい日常を過ごす中、このような緊急性の低い、しかし重要な事に目を向けるのは簡単なことではない以上、そのようなきっかけを工務店経営者が提供しなければならないと思います。
自助の精神に気付く場
一体何のために、誰のために、命の危険さえある建設現場で汗水流して働くのか。職人たちは今一度、自分だけ、自分の身内だけが良ければそれで良いと言う思考を見直してみるべきだと思うと共に、そのようなことを考える機会、自分の持つ無限の可能性に気付いたり、未来を切り開く行動を起こす練習をする機会を増やす環境整備が必要だと考えます。私達が一般社団法人職人起業塾で行なっている職人の意識改革の取り組みは、まだまだ始まったばかりであり、小さな影響力しか持たないですが、全国で意識を変え、役割を増やし、現場で決められた作業だけを行うのではない、圧倒的な顧客満足や近隣、地域からの信頼を得るような付加価値を生み出す職人が続々と生まれています。建築業界をこれ以上、若者に見捨てられ、衰退させないように地道な活動を進めています。モノづくりの本質、職人を守り育て、そして輝ける業界は職人自身の自助の精神があってこそ。そして、モノづくりを担う工務店経営者が技術のみではなく、精神性を含めた職人育成とその環境整備に今こそ注力すべきではないかと思うのです。コロナの影響であらゆる産業が疲弊していく中、地域インフラであり、人が暮らす環境を整える建築業界が見直されているこのタイミングを逃してはならないと思うのです。
一般社団法人職人起業塾では職人採用、育成、制度整備に関するあらゆるご相談に無料で対応しています。ご興味があれば是非一度オフィシャルHPを覗いてみて下さい→https://www.shokunin-kigyoujyuku.com