[第5回]経営戦略の実例①「アフターメンテナンス強化」

2021/05/1812:30584人が見ました

 ソルトの青木隆行です。前回まで理念構築→経営戦略の立案という流れで工務店の屋台骨の部分の話をしてきましたが、経営戦略を立て日々の行動まで反映させるには、経営理念のもとに経営計画を立案し実践・徹底、そして振り返りが必要となります。しかし地域工務店の大半は経営リソースが不足しており、大切な経営の根幹づくりすら日々の業務に追いやられてしまいます。そこで、ここではいくつかの経営戦略の実例を挙げて、工務店経営にすぐに役立てるものをご紹介します。今回は『アフターメンテナンス強化』についてです。

 最初にまずひとつ問いを挙げます。これが今回のポイントです。

【問】持続可能なアフターメンテナンス体制構築=〇〇の〇〇の確保

 工務店にとって持続可能なアフターメンテナンス体制が必要なのはなぜでしょうか?

 ぱっと頭に思いついたことを記憶にとどめておいてください。後半に私の考える答えが書いてあります。

 

充分なアフター体制が敷かれている工務店はごくわずか 

 地域に根差す工務店経営者としては永遠のテーマですが、実際にお施主様にとって充分なアフターメンテナンス体制をとっている工務店はごくわずかです。これまで私は全国300社程度の工務店と何らかのお付き合いをしてきましたが、顧客も満足していると感じられるアフターメンテナンス体制を敷いているのはほんの数社です。

 私自身工務店経営者時代には、専任のアフターメンテナンス担当者2名を配置し、さらにパートさん2~3名にオーナー宅の定期訪問をお願いしていた事もありました。建ててからが本当のお付合いと言って真剣に取り組んでいましたが、年々お施主様の数も増えその数が1200棟以上となり、どのように仕組化をするかを思い悩んだ経験があります。アフターメンテナンス体制については特に継続性に重点を置いたリソースの割り振りが必要となりますが、決断するには収益性や人材の確保に課題が残りました。

 地域工務店経営者の多くは、アフターメンテナンスが長期的な信頼獲得に不可欠と考えておられるでしょう。分かってはいるけれど、新築やリフォームの受注施工と比べて構造上人を割くことが出来ないケースが多いのではないでしょうか。それをカバーするために例えば「社員全員がアフター担当だ」といった兼業思考に陥りやすいのです。この社員全員アフター担当という考え方は、お施主様への向き合い方としては正しいと思いますが実務面では問題になりやすく、満足のいく形にするには社内の結束力と仕組化が必須になります。

 

 あらためて、このようなアフター体制が整備されない原因としては

⑴新築・リフォーム顧客から大きな収益を得ていく業態であり、力がかけられない

⑵新築時の収益性の低さ

⑶顧客に貢献したいという気持ちの強さが過剰サービスを生む

⑷仕組みがなく担当者任せにしていて時間や労力がかかり疲弊させてしまう

⑸受注棟数の増減などからチェック体制が甘くなりサービスに持続性がない

⑹アフター体制を作り上げるという経営者の明確な決断

という事が挙げられます。他にも会社の事情によってたくさんあると思います。

 

費用確保とタッチポイント増加がカギ

 では解決策としては、

⑴『新車車検パック料金』のように新築時に住宅点検パックとして諸費用として頂戴する

⑵保険の活用(アフター点検時に保険請求ができる仕組みの活用)

⑶パート社員の活用(複数名で訪問・電話やメールの取次・メーカーへの依頼と実施確認)

⑷パートナー企業(協力業者)との連携強化

⑸デジタル化による情報集積と適切な双方向のコミュニケーション

等があると考えます。

 アフター費用の確保と同時に、タッチポイントを増やす=デジタルツールの活用、タイミングを逃さない=スピード対応・効率的な行動などで持続可能なアフター体制を敷くことは、地域工務店経営者として必ず考えておかなければならない事です。

 

なぜアフター体制について考えるべきか?

 ここからが冒頭の問いの答えでもあります。なぜ持続可能なアフター体制を敷くことを工務店経営者は考えなければならないか? なぜなら住宅産業はシリアスな事業であり、高額で簡単に取り換えが聞かないタイプの事業です。誠実に取り組んでいても一定割合でのクレームも発生し、それが感情的になりやすい側面があります。これが「社員の心理的安全性を損なうこと」が最大の問題なのです。

 それがどのような結果を引き起こすかは言うまでもありません。社員の損失が労働集約型である住宅事業にとっては最も避けたい事態です。

 だからこそ、アフターメンテナンスを維持継続できる体制づくりの有無が地域工務店の長期的発展に大きく関係すると考えています。

 

POINT持続可能なアフターメンテナンス体制構築=社員の心理的安全性の確保

一覧へ戻る