工務店のビジネスモデル再構築と職人不足解消の鍵は“タレンティズム”② 〜JO1とNiziUに学ぶ〜

2021/05/2718:13529人が見ました

コロナによるパンデミックの影響で世界的に経済が停滞、後退していると言われる中、アメリカのグローバル大手、アマゾンとアップルの決算報告が先日公開され、その莫大な営業利益の拡大に愕然とさせられました。現在のグローバル資本主義はゼロサムゲームの圧倒的な弱肉強食の競争世界が広がり、1%の富裕層に圧倒的な富が集まる格差社会が極まっていくと言われていますが、昨年から延々と続き、まるで出口が見えないコロナ禍でさえも味方につけて、業績を伸ばし続けるアメリカのグローバルIT企業に世界が飲み込まれるのは時間の問題のような印象を持ってしまいます。
GAFAの爆発的な成長は、同時に世界のITマーケットの拡大と寡占化を意味しており、デジタル、ITテクノロジーが世界の津々浦々まで普及したことを顕著に示しています。この10年で世界は間違いなく豊かに便利になったのでしょうが、同時に環境問題や、ウツに代表される精神疾患の人が増えるなど新たな社会課題を生み出しているとも言われます。世界中のトップの頭脳が集まって行われるダボス会議では、グレートリセットと呼ばれるグローバル資本主義の終焉と、新たな価値観による社会システムの構築が熱心に議論されていると前の記事で紹介しました。そして、その入り口は人が持っている能力を最大限に活かし、イノベーションを起こす原動力にするタレンティズムにあると言われており、古い枠組みに縛られたままで若者に嫌われ、老人ばかりの業界になりつつある建築現場の問題解決こそ、そのシフトが必要だと私は思っておりますし、実際に私自身が経営する建築会社の実業でもその取り組みを進めています。今日はその実務の部分について書き進めたいと思います。
前の記事はこちら→https://chikalab.net/articles/935

タレンティズムが求められる理由

タレンティズム(才能主義)とは人の力を開花させて企業の力に変える人本主義の考え方と基本的なところは非常に近しいと思います。ただ、先日の記事で紹介した伊丹教授が人本主義を提唱されてから20年以上の時が経ち、世界の環境も価値観も大きく変わってしまった事実は考慮する必要があり、その当時と同じ理論をそのまま今の世界で通用すると考えるのは流石に無理があると思っています。18世紀の産業革命を凌駕して人の営みを大きく変えてしまうと言われている現在進行形の情報・ICT革命はこれまでの社会の常識が全く通用しない世界であり、これからはこれまでの延長線上にはないのだと日々肌身に感じています。顧客接点や現場から生み出されるインサイト、もしくは全く新しいイノベーティブな発想を集めることでITグローバル企業による圧倒的な寡占化が進む激動の時代に生き抜く力を私たちの様なスモール&ローカル企業が手にすることが出来ると考えれば、これまで通りのピラミッド構造のヒエラルキー型管理社会では、頭の固いトップの思考に引きずられるだけで絶対にダメで、旧態依然の組織と思考のままで新しい発想を生み出せるとは到底思えません。もっと一人一人が自由に、のびのびとやりがいを持って働ける環境を作り出すことがタレンティズムには不可欠だとすれば、組織自体のあり方を見直す事が必要になります。その様な背景を元に近年、新たな組織形態としてティール組織や、ホラクラシー型組織が現在注目を集めているのだと理解しています。

効率から効果性へのシフト

長年、建築業界にいる私としては、建設などの許認可型の業界は法的な縛りも厳しいこともあり、最もピラミッド型の管理色の強い業界ではないかと感じています。私が全国で職人をはじめとする現場実務者向けの研修やセミナーを行う中で強く感じてきたのは、オレンジ型と言われる目標設定や、ビジョンを共有しそこに突き進んでいく組織構造のまだもう少し手前の完全トップダウン式の軍隊をもう少しマイルドにした程度の組織があまりにも多いと言う事です。私が主宰している建築実務者の個性を開花させる研修である職人起業塾に参画されている企業はその中でも先進的かつ本質的な視点を持たれている経営者ばかりですが、そうではなく「職人に余計な知恵をつけたらやりにくくなるだけ、独立でもされたらどうするねん」と、まるで兵隊、もしくは道具として職人を扱っている経営者の方が圧倒的に多いのが現実です。そこではタレンティズムどころか、トップの人間の意のままに動く兵隊がいれば良いとされ、従業員は型にはめられた技術の習得だけを課せられて歯車の1つとして働き続けている現状があります。画一的なものづくりで、大量生産大量消費の時代にはそれが最も効率的だったわけですが、今はあらゆる情報が開示され、ユーザーのパーソナリティーに適応する多様性が求められる時代になりました。電動工具を使うようになった大工の所得が下がり続けた様に、効率では人は豊かにならないことは長い歴史が証明しており、人がいることの効果性に視点を移すべきだと思うのです。

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タレンティズムで行うべきは職人のJO1化

私が主宰している一般社団法人職人起業塾の研修は、職人をはじめとする現場実務者に対して半年間かけて、古典的なマーケティング理論や本質的なコミュニケーションスキルをレクチャーし、また社会的基礎力と言われる人間力を高める講座を行います。塾生はそこで自分自身が持つ可能性に気づき、実践を通してその価値を具現化する練習を繰り返すことで、ただ、言われた事を言われた通りに、図面に書かれたことを忠実に再現する作業員から抜け出して、プロフェッショナルとしての誇りと責任を持って、現場実務者ならではの知見を元に提案や課題解決ができるようになる、もしくはそうなる様に知識や技術を身につけようと努力するようになります。いわば、経営者感覚を持ち、起業しても立派にやっていけるくらいの力を身につけることで、そこに人がいる効果性を最大限に高めるのがこの研修事業の目的です。そんな従業員が数多く存在する事業所は、顧客との接点を持つ先々でファンを作り、紹介やリピートの顧客からの売り上げを生み出す力を備える様になります。現場実務者のタレント化こそ、広告宣伝、販促活動に多額の資金を投入する血みどろの競争原理の世界から離れたところで事業を行える様になる入り口であり、そのきっかけを私たち一般社団法人職人起業塾は提供しています。若者に嫌われ、圧倒的な職人不足に陥っている建築業界はタレンティズムのムーブメントに乗って、現場実務者のタレント化=現場人材に技術以外の人間力的な教育の場を与える必要があり、職人は道具ではなく人であり、その隠れた才能を開花させる機会を与えるべきです。最近、大きな話題となったNiziUやオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』から選出されたJO1などのアイドル(タレント)も歌やダンス等のスキルを磨くプロセスがあってこそ、デビューしてから圧倒的な支持を得られるのだと思います。建築業界でもタレント養成の仕組みが必要だと思うし、その様な考え方を広めていくことが私のライフワークだと思っています。次回はタレンティズムと組織論との関係について書き進めたいと思います。
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