工務店のビジネスモデル再構築と職人不足解消の鍵は“タレンティズム”③ 〜才能を開花させるのは環境〜

2021/05/3111:4225人が見ました

前の記事には先行きに閉塞感が漂い始めた新自由主義的なグローバル資本主義から、関係資本主義、共感資本主義と言われる持続可能な三方良しの世界に移行するには新たな価値を生み出す顧客接点でのインサイトやイノベーティブな発想が必要であり、トップダウンではなくボトムアップ式で末端の実務者全員が才能を開花させ、活躍できるような状態を整える必要性を提言しました。最近注目を集めているタレンティズムの考え方に非常に近しい考え方で、その実務への実装には組織のボトムを構成するメンバーに、学び成長する機会を広く渡すことが必要で、私たちは一般社団法人職人起業塾の活動を通して建築業界で職人が輝き、やりがいを持って働ける、そして豊かな暮らしを享受できるようにスキルアップの機会を提供しているとまとめました。しかし、実はその前段階として建築業界を改革するにはもっと重要なことがあります。それは、現場実務者が置かれている労働環境で、まずその根本を正さなければタレンティズムの発現どころか、いつまでも若者が寄り付かない業界のまま、衰退の一途をたどってしまうと思っています。今日はその部分について書き進めたいと思います。

タレンティズムを阻害する環境問題

人間は環境の生き物だと言われます。その解釈は様々ですが、激しい環境の変化に順応することでホモサピエンスはここまで生き延び、発展を続けて地球を制覇したと言うのが大方の見方です。人生は選択によって作られるし、選択を行う意思の力で自らに与えられた環境を切り開くことができると私は思っておりますが、実際は環境に慣れ親しむと、自ら変化を起こしたくなくなるのは人間の本能だと言われており、与えられた環境の中で変化に順応して生きていく人がほとんどなのもまた真理だと思っています。人は環境に左右される生き物なのは確かで、タレンティズム(才能主義)が真価を発揮するには、個人が自由にのびのびと、そして主体的に働く環境の整備が必要だと言われますが、残念ながら現在の建築業界には殆どそのような概念を取り入れる事業所はありません。
私は一般社団法人職人起業塾の研修で、末端の職人に経営者意識を持って、顧客と事業所の両方への付加価値の提供を行うのと同時に、自分自身が誇りとやりがいを持てる行動とその選択を行う実践研修を行っています。研修を終えた卒塾生は今まで気づいていなかった自分の才能や潜在的な価値に気づき、大いにモチベーションを高めて現場作業+ αの付加価値創造に取り組みます。まさにタレンティズムの入り口だと思ってこれまで研修事業を続けてきましたが、残念なことにあんなにやる気になっていた卒塾生がその後、離職して違う業種に就いたと言う話を少なからず聞くことがあります。その主たる原因は職人達が働いている環境にあるのだと私は気づき、昨年から工務店経営者向けに労働環境、人事制度、社内風土改革のワークショップを精力的に開催しています。才能を発揮できる環境無くして、タレンティズムの効果が発揮されることはないのです。

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真の主体性は無承認、無管理、無許可の状態

このシリーズの①でタレンティズムと日本で古くから重んじられ続けてきた「企業は人なり」の原則に立脚した人本主義が根本的な部分で非常に近しいと書きましたが、近年、組織に所属する人の可能性を最大限に発揮して大きな成果を手にした企業の例を見てみると、従来のピラミッド型の管理型組織ではなく、上下関係が希薄で、管理、統制ではなくメンバーの主体性に任せるフラットな組織構造の企業が多いことに気付かされます。ティール型とかホラクラシー型などと呼ばれるそれらの組織では、自由な発想でイノベーションを起こし続ける社風が形成され、結果的に大きな付加価値を生み出しています。まさに組織を構成するボトムのメンバーから数多くの才能が開花した成果だと言えると思いますが、いわばサントリー社の創業者の有名な言葉「やってみなはれ」の概念が事業所全体の細部まで行き渡り浸透した状態であり、平成以前の許可、承認を受けてチャレンジする体制の考え方とは根本的な違いがあり、その部分を変える必要があると思っています。
真にタレンティズムを発揮するには無承認、無管理、無許可で主体性を持って自由に働ける環境を整える必要があり、経営者、経営陣は「管理する」という概念を捨て去って、メンバーの主体性に任し切る勇気と覚悟が必要だと思うのです。
しかし、上述の考え方は少し間違えば無責任な放任主義に陥り、組織も事業も統制が取れなくなり、破綻に陥るのではないかと感じる方も少なくないと思いますし、実際、私もその1人でした。現在、自身が経営している事業所では、勤続10年以上のメンバーが大半を占めており、かなりの部分でスタッフに権限を委譲して主体性に任せております。しかし、まだまだ承認を求められることも少なからずあり、真の主体性を発揮してもらうには未だ改善の余地が多くあると実感しながら組織の変革を進めているのが実情です。

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真の主体性と責任の関係

建築業に限らず、10年〜20年も専門職として働いていると、実務的な面では別段承認を得なくても判断が出来る様になりますし、なって当たり前です。なので、顧客価値の最大化と顧客満足、法適合、適正価格、実現可能なスケジュール、事業シミュレーションに沿った成果等の基本的なルールだけ押さえていれば、休みも働く時間も自由に決めて仕事を進めて下さいと言うのが私のスタンスです。技術面、知識面でのスキルは全員が同じレベルには達していませんが、20年間に渡る情報の蓄積が社内にはあり、あらかたの問題は解決出来るはずです。それでも上長に承認を求めようとするのは、自分では責任を負えないと判断した時が殆どだと思います。上述の、経営者にはメンバーの主体性に任し切る勇気と覚悟が必要だ。というのはまさに最終責任を負う覚悟を指しています。しかし、真の主体性の発現を目指すならば、責任は誰かに負ってもらうものではないはずで、(私自身も含めて、)この責任に対する考え方を組織内で根本的に変えてしまうことが必要なのではないかと思っています。責任の定義を改めてデジタル大辞泉の解説に引くと以下の通り。

せき‐にん【責任】
1 立場上当然負わなければならない任務や義務。
2 自分のした事の結果について責めを負うこと。特に、失敗や損失による責めを負うこと。
3 法律上の不利益または制裁を負わされること。

先日、自然経営コミュニティーの勉強会に出席した際、ティール組織における責任の所在が話題に上がりました。講師である天外氏と武井氏によれば、ティール組織にメンバーの責任はない。との見解が出されて大いに驚いたというか、これまで大切にしてきた前提条件が一瞬にして外されて、目から鱗の衝撃的な体験でした。それを私なりに実務に照らし合わせて考えて、上記の責任の定義を紐解いてみると、
1については、約束を守るといった職業人として、と言うより人として当然あるべき姿で、これは上長の承認を得るべきものではありません。
2は結果についての認知を(出来ないかも、間に合わないかも、等)共有しながら仕事を進めれば、責めを負う必要はなくなります。
3については法適合を慎重に進める、単に確認作業を行うことで回避できます。

タレンティズムとサスティナビリティとの深い関係

このように、顧客、社内、ステークホルダーとのコミュニケーションとそこから生まれる関係性が安心、安全な場になっていれば、責任の所在や取り方について迷ったり悩んだりする必要がなくなります。要するに、「場」と言う環境が整えることで、主体性に任せ切り全ての人に遺憾無く才能を発揮してもらうことが出来る様になると思うのです。ティール組織の概念とは少し違うかも知れませんが、現時点で私としては強い信頼で結ばれたコミュニティーの形成がタレンティズムの発現には不可欠だと結論づけています。実際に株式会社四方継では、神戸を中心とした地域コミュニティー事業「つない堂」を昨年から立ち上げて人と人、人と街を繋ぐ活動を展開しており、タレンティズムへのシフトで大工と設計士による運営の「つむぎ建築舎」との両輪で事業の再構築を目指しています。
これまでの私の「責任と主体性(タレンティズム)」に関しての考察は、甘っちょろい理想論に聞こえるかもしれませんし、確かに現在の弱肉強食の競争社会であるグローバル資本主義社会では成り立つものではないと思います。しかし、アメリカのバイデン大統領が格差社会の深刻な拡大に懸念を表明し、富裕層への累進課税を強化する法案を提出すると報道されたことに代表される現在の社会システムの弊害と綻びが世界的に指摘される今、次に来るのは共感資本主義、もしくは関係資本主義と称される、人と人との繋がりや絆を大切にするローカリズムをベースとした社会だと言われており、これらと根本的な価値観、考え方は同じではないかと思うのです。タレンティズムへの構造改革は、自社独自のマーケット構築とも深く関係し合い、持続可能な組織、そして持続可能な業界への第一歩になると思うのです。

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「場づくり」から事業を再構築する取り組み進めてます。

 

 

 

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