工務店のビジネスモデル再構築と職人不足解消の鍵は“タレンティズム” ④ 〜タレント職人養成と構造改革〜

2021/06/0120:26108人が見ました

ここまで3回に渡り、持続可能なビジネスモデルの構築や職人不足問題の解決等々、建築業界が抱える問題の根本的解決と世界の大きな変化に対応すべき建築業界の構造改革論についてタレンティズムをテーマに書き進めてきました。今回の最終回は現実の状況から脱却する具体的な方法論と私が実際に実業に取り組む中での現時点での結論を書き述べてみます。

精選版 日本国語大辞典の解説(抜粋)
タレント〘名〙 (talent)
① 才能。特に芸術上・学術上の才能。才幹。
② 才能・特技を持つ人。現在では芸能人

タレンティズムにおける若年層の育成

このシリーズは、昨年のダボス会議で資本主義はグレートリセットで終焉を迎え、その次を担う共感資本の社会システムの根幹に来ると話題に上ったタレンティズムこそが、圧倒的な若手の職人不足に陥り、先行きの見通しが暗すぎる建築業界を復活させる構造改革のカギになるのではないか、との私の仮説と言うか持論を展開しています。その①では、職人という仕事が非常にタレンティズムと親和性が高い職業である旨、次にNizuUやJO1などのアイドルグループを引き合いに出して才能を発揮する為のタレント養成機関創出の必要性を述べました。先日のその③ではタレントイズムを発揮するには環境が重要であると述べて人事制度や社内風土を根本から見直す概念的な部分を描きました。今回からは、もう少し粒度を細くして実務の部分に踏み込んで書き進めて行きます。タレンティズムは組織に所属するメンバーの才能を発揮して新たな付加価値を生み出す考え方である以上、組織論とは切っても切れない関係にあります。以前私がこの記事でまとめた理想の組織論の条件の1つに「所属するメンバーの成長と新陳代謝が滞りなく起こる」と言うものがあり、持続可能な組織を作るには、若い人材の登用と育成が欠かせないとの考え方が基本にあります。本来、タレンティズムを発揮するには所属するメンバーが自由にのびのびと主体性を発揮できる環境が必要とされていますが、新陳代謝を繰り返すには常に未熟で経験則も低く技術も練れていない若年層の新規加入が必要であり、そこには主体性とともに技術や知識面での成長を促す仕組みが必要だと考えます。

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人材育成における表裏一体論

ある程度のスキルや知識を持ったそれぞれの道のプロフェッショナルが同じ目的のもとに集まっている成熟した組織では必要ないかと思いますが、若者を受け入れる組織には必要だと思われる成長を促す仕組みを具体的に述べると、人事制度に集約されると思います。若者が常に入ってきて、その成長を組織の成長に転換する場合にはまず若者に幅広い選択肢のあるキャリアプランを示すことが非常に重要ではないかと考えます。そしてそれは決して事業所が規定した通りにスキルアップしろと指示命令するような内容ではなく、若者が将来の自分が活躍する姿を夢見て自ら選択できるような働き方のバリエーションを示すべきだと思うのです。このキャリアプランとセットで整備すべきなのが働き方の役割と担う責任に応じた給与を明確にする等級制度と評価制度で、ジュニア層(見習い)からスタートして、スペシャリスト層(専門家)、リーダー層、そして大きな裁量を任されるマネジメント層とキャリアアップすることで働き方の自由度も大きくなる、成長に応じて主体性を発揮できる環境を順次渡していけば、おのずとタレンティズムが組織の中に浸透していくのではないかと思っています。
等級制度や評価制度の導入と言うとピラミッド型組織の典型のように感じますし、主体性を発揮するタレンティズムと真逆の方向だと思うかもしれませんが、実際に若手大工を育成し、現場のリーダーとして成長したスタッフに事業を継承しようとしている私の経験則では若者の成長に寄り添い、サポートすること、タレント養成する機関としてのキャリアパス、成長の進捗確認をする仕組み(人事制度の運用)は若手が基礎的な力を身に付けるのには必要だと思うのです。今の世の中は正解と不正解、善と悪の明確な境界線はなく、一元的な視点で物事を見たり決めつけたりするのは非常に危険だと思っており、そういった面からしても真逆と思えるような価値観を組み合わせて新たな体系を作る事は決しておかしくないと思うのです。

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理想へとつながる神の道

現在のグローバル資本主義社会で深刻さを増している格差問題やグローバル大手によるマーケットの寡占化、経済発展の裏返しと言われている環境破壊や気候変動等々、豊かになった世界が今後抱える問題はこれまでの延長線上では解決の目処が立たないどころか、より問題を大きくしていく懸念を世界中の多くの人が口にされます。グレートリセットと言われる根本的な価値転換、社会システムの刷新によってそれらの社会課題の解決への糸口を探る中、組織のあり方や人と人との関係性について考え直すべきだと言われており、これまでのヒエラルキー型の指示命令管理統制で組織や社会が動くのではなく、誰もが自由に無限の可能性を秘めた才能を遺憾なく発揮できるフラットな世界への転換がよく議論されます。ここまでタレンティズムについて繰り返し考察を重ねてきた私としては、全くその通りだと思いますが、この世の中は右か左か、100か0かではなく、両方の価値観を包括した第3の選択肢、昔の言葉では中庸と呼ばれる神の道が存在すると思っています。変えるべきものは変える、残すべきものは残す、新しい概念を現実社会で実装するには高い理想と共に強いリアリティーも必要だと思うのです。ピラミッド型の人事制度を整えた先に本当に誰もが輝けるタレンティズムの世界が広がっているというのが現時点での私の答えです。

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