ソルトの青木隆行です。今回も「地域工務店ならではの経営戦略を立てよう!」の実例シリーズをお伝えします。今回はどんな工務店にとっても欠かせない「財務戦略」の前編です。工務店にとっての財務戦略、すなわち資金の管理および数字の目標設定というのは、意外とスタンダードになる考え方が浸透していない印象があります。
【今回のPOINT】まずは財務分析で自社の状況を把握しよう!
会社の強みを活かして顧客満足を獲得し事業を安定・成長させる事は、お施主様をはじめ社員・取引業者など会社にご縁のある方々の物心両面の幸せ実現に繋がります。この目的(理念)を達成するため、事業を円滑に進めるためには資金が必要です。財務とはこの資金を管理・調達する業務を指します。
今回はその財務を戦略的にとらえる事についてですので、短期的な資金繰りというよりは中長期的な財務面の目標設定という観点でお伝え致します。
⇒[前回]地域工務店の経営戦略の実例④「移動式展示場戦略・ドミナント戦略」
財務戦略とはなにか?まず分析の手法を知ろう
財務戦略を練る上では、まず財務の分析が必要になります。財務の分析は、安全性・収益性・成長性という3点から考えることが出来ます。
1.安全性:企業の経営状態が安全かどうかを見ます。
代表的指標としては自己資本比率・流動比率・損益分岐点比率などでみる事が出来ます。
・自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100
⇒工務店では40%以上が望ましいと考えています。
・流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
⇒工務店では200%以上が望ましいと考えています。
・損益分岐点比率(%)=損益分岐点÷実際の売上高✕100
⇒工務店では70%以下が望ましいと考えています。
安全性指標は、安全性の観点からは高い方が望ましいのですが、高すぎるとかえって経営が非効率であるともいえます。しかしながら地域工務店の場合は、地域に根差すという観点から、安全性は高めの目標設定が良いと考えています。
2.収益性:企業がどのくらい効率よく利益をあげているかを見ます。
代表的指標としては売上高営業利益率・ROE(自己資本利益率)などでみることが出来ます。
・売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
⇒工務店では8%以上が望ましいと考えています。
・ROE(%)=純利益÷自己資本×100
総合的な収益力を示す指標であるROEやROAを併用することが望ましいです。
収益性をみる際には、内容を分解して粗利率や販管費率を見ておく必要があります。建設業の場合は労務費を原価に算入して粗利率を算出するのが正式な手法ですが、過去の収益性トレンドが分析できる形であればそれで良いです。
労務費を原価に算入しない形での粗利率は,、30%以上が望ましいと考えています。
3.成長性:会社がどれだけ成長している・伸びているかを見ます。
代表的指標としては売上高増加率・経常利益成長率などでみることが出来ます。
・売上高増加率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
・経常利益成長率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
成長率は各社の戦略によって変わってくるところであります。地域工務店においては急成長ではなく持続的成長(年率5~15%成長)が望ましいと考えています。
財務分析は過去の実績と現状を客観的に把握する手段
このほかにも、会社の経営資源を効率良く活用し、売上や付加価値を創出しているかを見る生産性分析などがあります(代表的な指標としては労働分配率・労働生産性など)。また工務店業界では『社員一人当たり売上高5,000万円』や『一人当たり経常利益200万円』という説があったりします。こういう指標は会社の収益構造・組織構造や規模によって差が出てきますが、目標達成のための指標のひとつとして活用するのは良いと思います。
冒頭に申し上げたように、会社の強みを活かす(工務店経営において商品力や施工力を磨くこと)は事業の安定性・成長性の観点から大変重要です。しかしながら、どれだけ商品力が高くても、相応の収益を得ておかなければいけません。収益性が低いと長期的に安全性が低下し、成長性はあっても、思ったほど利益が残せず強固な財務基盤を作り上げるのに時間がかかってしまうケースはあるものです。また逆に、成長性は低いがしっかりと収益を取れている場合に検討するべき戦略もあるでしょう。安全性・収益性・成長性の3点という視点から、まずは現状を明らかにしてほしいと思います。
今回は財務戦略を立案する第一歩としての財務分析について述べました。財務分析は過去の実績をあらわにし、現在の経営戦略が正しい道を進めているのか判断する客観的な指標です。現状を踏まえて財務指標の面からなりたい姿を考えて目標設定を行い、戦略的に進めていく事で事業基盤が堅固になっていきます。
次回に続きます。
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