[第11回] 経営戦略の実例⑤「財務戦略 2/2」

2021/10/2611:44351人が見ました

 ソルトの青木隆行です。前回は財務戦略を建てる前にまず財務分析を行う事、そして各指標において私なりの目標提示をしました。⇒ [前回]地域工務店の経営戦略の実例⑤「財務戦略 1/1」

 今回も財務戦略の続きです。

【今回のPOINT】決算書は開示できるようにしておこう!その理由は?

 過去、私自身の銀行マン~工務店経営を経て、やはり工務店は粗利益確保が大変重要な要素になると考えています。工務店に限ったことではありませんが、特に地域に根差した工務店のような業態は「事業の継続性」がカギになります。例えば創業当初は勢いで成長をしたとしても、収益性が低い場合には思ったほど自己資本がつくれず、安全性に不安を抱えるケースもあるでしょう。また収益性が低い事で社員に充分な給与が出せない(良い人材を集める事が難しい)・アフターメンテナンス体制が整わないなどの課題が出てきます。この意味で、粗利率に関しては常にウォッチしておくべきでしょう。

 

粗利率確保が工務店経営の分岐点

 前回解説したとおり、工務店の粗利率は30%以上(労務費は含まない)が望ましいと考えています。(あわせて、販管費率にも目を向けましょう。特に人件費は、行動時間をコストや収益で算出していくと行動妥当性も分かってくると思います)

 ただここでは、『価格が上がると受注率が落ちてしまうので、そこまで高い利益率は取れない』という意見もあるかもしれません。そこが工務店経営の大きなポイントになります。それは企業努力次第で、事業発展のためには粗利率30%を確保するにはどのようにすれば良いのか?を考えていく必要があるでしょう。

 下記に大手住宅メーカー5社の平均単価・平均床面積・平均坪単価の推移をあらわしています。 

 2010年から2019年の間で平均単価が1000万円以上、上がっているメーカーもあり、平均坪単価は100万円前後となっています。住宅性能の向上と共に単価は上がり、住宅着工棟数減少のなかで単価を上げ、売上を確保する形となっています。

 ここからみても、市場では住宅価格は上がってきている事は明確であり、地域工務店各社も商品力・サービス向上と共に単価アップ(≒粗利率アップ)を目指すべきだと考えています。

 

財務戦略の目的は共有すること 

このように財務面から『なりたい姿を具体化する』のが財務戦略だとも言えます。そしてそれは売上だけに目を向けるのではなく収益性・安全性・成長性・生産性の観点から目標設定を行い、中長期的に目標達成をしていく事で健全な会社づくりが出来るのです。

目標設定をする際には具体的に型をつくる事が明快です。例えば、粗利率30%・販管費率22%・営業利益8%・自己資本比率50%・流動比率200%など、目指す形を指標で表していけば社内共有もスムーズです。もちろん社内共有時には「何のために財務戦略を立案するのか」という想いも併せて共有し伝えていくべきです。社内モチベーションの向上にもつながるでしょう。

 

キャッシュの確保に必要なこととは?

 また地域工務店の場合は特に、キャッシュを潤沢に持っておく必要もあると考えています。工務店ビジネスはお客様から前もってお金を預かる事も多く、資金回収の条件次第で運転資金はほぼ不要になるケースもあります。手元流動性は常に月商の3か月分程度とすると、資金効率は悪くなるかもしれませんが仕入れなどでフレキシブルに対応できる体制をとることで積極的な経営が行えます。

 ほかにも、土地や展示場、分譲住宅の完成在庫をたくさん持ってしまうと、資金が寝て固定費がかさみ資金繰りを圧迫します。ここは移動式展示場戦略をとって極力固定費ビジネスにしないようにして、目標とする指標をクリアする事も考えた方が良いでしょう。

 そして何より受注・完工の平準化はとても重要です。これは品質確保や生産性向上の観点からも必須ですが、財務戦略面からも資金管理効率の改善や収益性向上などに直結しています。受注を安定化させるために会社の強みを明確化し、集客から前倒しの段取りが財務改善を促すことになるのです。逆に採用や教育研修のように短期的には負担になるものもありますが、長期的な会社の成長を見込む(目指す)のに不可欠な取り組みの場合は、それも踏まえて計画を立てていく事となるでしょう。これらの結果が来期以降の決算書(経営者の通知表)として出てくるのです。将来を予測して今を改善していくのは経営者の仕事でもあります。

 

 工務店はいつでも決算書を開示できるのが理想

 コロナ禍において住宅工務店業界は恵まれた環境にあると言って良いでしょう。おうち時間を大切にするなどの時流から業績を伸ばした住宅会社・工務店も多いと聞いています。上場企業に至っては軒並み好決算が続いています。

 上場企業には業績開示義務がありますので、決算状況や財務体質などが明確にわかります。しかし地域工務店は非上場企業がほとんどで、しかもオーナー経営が多い事もあり業績開示をするケースはわずかです。細かいところを詮索されたくないなど理由があるのかも知れませんが、地域に生きる工務店として、お施主さまに決算書を開示し、企業の安全性を示すことは必要ではないでしょうか。少なくとも『中小企業格付け』などを行い財務の健全性をお伝えする事も可能です。こうすれば、財務戦略によって作り上げた財務基盤の強い工務店の強みが活きると思います。

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