[第12回]長期安定化戦略『日本的経営のススメ』(1/2)

2021/12/0617:08214人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。今回は地域の工務店にとって「日本的経営」がなぜマッチしていて、どのような部分が業績を安定させるベースとなるのか。またそもそも「日本的経営」とはなにか、解説をしていきたいと思います。今回が概論、次回でより実践的な内容をお伝えする予定です。

POINT】 ➡「日本的経営」はゼブラ経営・ステークホルダー資本主義の原点 

 

高い信頼度で受注を得てきた。土台にあるのが「日本的経営」

 地域工務店経営者の皆さまは、自社の業績やブランディング・デザイン・性能といった事と同等かそれ以上に、会社に関わる人(社員・お客様・取引先など)や地域社会にも配慮しながら、日々経営をしておられるのではないでしょうか。

基本的に地域工務店は特定のエリアで長期的な事業活動を行います。建設業は裾野が広く、元請け工務店ともなると地域への貢献度や影響力は少なくありません。また工務店の性質上、長期安定的な業績や健全な組織風土によって地域からの信頼を得ることも多くあります。例えば何代も続く経営基盤のしっかりした工務店は、地域からの高い信頼度で受注をすることもしばしばあります。自社の業績と共に、関わる人々や地域への貢献を考える、まさに地域密着型の工務店が求められてきたのです。

他方で、急成長しておられる素晴らしい工務店もたくさんあります。しかし、急成長だけでは本当の意味で地域からの信頼は得られません。年輪経営を実践している地域工務店には、時間軸での模倣困難性があると考えています。歴代経営者の脈々と続く理念実践と時代に適応する変化のバランスが地域の信頼を得て、更に経営基盤をゆるぎないものにしている地域工務店は多く存在します。

地方においては、経営者の人格や企業の経営理念、社会的な存在意義が信頼構築に大きな影響を与えます。それは表面的なデザインや一時的な業容拡大などではなく、理念を中心とした戦略への落し込み(アフターメンテナンス体制・社内の人財育成)や協力業者との健全な関係構築といった長期的視点に立ったものでもあります。

業歴の浅い工務店がこういった事を疎かにしているという訳ではありませんが、地域で工務店経営をしていくには、このような過去・現在・未来を一本の柱とする信頼構築=日本の経営者が昔から大切にしてきた商業倫理観=『日本的経営』が求められているとも言えます。

 

日本的経営の本質と「見えざる資産」

 世界各国の産業構造は、その文化・風土・地理的環境などから影響を受けており、経営スタイルも国の歴史や法制度などから成り立っているところが大きいと言われています。日本では古くから儒教的要素・報徳思想・武士道・陽明学・経済道徳合一説などが近現代日本の経営スタイルの系譜の基礎となっています。下記の考え方はまさに日本的経営をあらわしています。

 

*真の商人は先も立ち,我も立つことを思うなり -石田梅岩

*先義後利 -大文字屋 下村彦右衛門

*徳義は本なり,財は末なり,本末を忘るる 勿かれ -茂木家 家憲

*三方よし-売りてよし、買いてよし、世間よし -近江商人

 

対照的に、米経営学者のマイケル・ポーターは「5つの力分析」などで、売り手や買い手などを仮想敵としてそれに対する交渉力を問題としています。日本においては協調的関係性を重視する事で事業が成立する、つまり勝ち負けではなく共存共栄の精神が存在します。

また『資本主義』に対して『人本主義』と言われる考え方もあります。これは『見えざる資産』つまりB/SP/Lには乗ってこない会社の資産(信頼・ノウハウ・人材・資格・経験など)が存在し、経営に大いに役立っている資産であるというものです。

見えざる資産がある事で、共通の価値観のなかで安定したネットワークが生まれ、人々が知識や技能の共有をしていきます。これにあわせて日本人特有の勤勉さが効果を発揮するという流れになるのです。そして『持たざる経営』に対して『持つ経営』という考え方もあります。例えば人間大事の精神から社員の雇用を守る事や、人さまへ迷惑をかけないために無借金経営を貫くなどはこれにあたります。

 

 

このような日本的経営からは『心理的な安心感』が生まれます。理念を掲げ仲間と仕事をする事が家族的な安心感をもたらし、離職防止や他者との協力、モチベーションアップなどにつながるのです。そして会社に関わるステークホルダー(お客様・取引業者・社員・経営者・株主・地域社会など)の利害関係を調整し、理念によって企業の社会的意義(企業価値)を高めていく事になります。

この結果として安定した業績・高い収益性が生まれてきます。この時間の蓄積自体がそのエリアでの信頼度・知名度を上げていく事になるのです。

 

工務店が目指すのはユニコーン企業ではない

欧米ではユニコーン企業と言われる急成長型の企業が多く輩出されている一方で、日本国内ではその数が少ない事が取り沙汰されます。確かに、国際競争上では必要な事かも知れません。しかし、地域で生きる工務店はユニコーン企業とは相反する『ゼブラ企業』の考え方の方が適していると考えます。

『ゼブラ企業』の概念はまさに日本的経営に近く、また最近言われ始めたステークホルダー資本主義(私はステークホルダーズサティスファクションの方が適していると考えますが)の実現も可能にさせると思います。古い考え方のようにも思える日本的経営ですが、実は『温故知新』で、現代の地域工務店経営に最も役立つのかもしれません。

 

 

 

 

地域工務店における「日本的経営」の有効性

 

特定の地域における元請け工務店および経営者の影響は少なくありません。どのような考え方(理念)で経営をしているのか、という事が長期的な経営の安定につながります。もちろん変革も必要な時期もあると思いますが、何より関係する人との協調的関係性を構築し、地域からの信頼を獲得することは工務店において最重要と考えます。

逆に業績重視のユニコーン企業的な考え方での地域工務店経営は『イチかバチか』的なものになりやすく、お施主視点では長期のアフターメンテナンス体制に不安が残ります。社員の心理的安全性も確保するのが困難になり離職に繋がります。

社員の離職は顧客との関係希薄化につながり、デメリットの方が大きくなります。住宅を建築する地域工務店は常に新規顧客を獲得するという業態ではあるものの、実は顧客にも地域でのネットワークがあり、見えざる資産の代表格『企業の信頼度』で業者選びをしている人は多いのです。また取引業者との健全な取引関係も大切です。「常にコストカットを強いてくる元請け工務店とどうにかして利益を上げようとする協力業者」という構図では、良い家造りができるか疑問ですし、彼らもまた地域に顧客としてのネットワークを持っていることを忘れてはなりません。

それよりは、信頼関係のもと確かな家造りをするためにお互いの考え方を共有しコストダウンを協力しながら実施していく関係性は大いにあるべきだと考えます。このように地域工務店は、経営の方向性を「日本的経営」に照らし合わせて活かす事は非常に有効な手段なのではないでしょうか。

次回はより実践的な内容をお伝えします。

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