SOLT.の青木隆行です。今回は前回(第12回)につづき、日本的経営の観点から、地域工務店の長期的安定経営の意義や重要性を考えてみます。具体的な手法についても盛り込みました。
前回述べたような日本的経営を地域工務店が推進するにあたっては、地域への愛着と倫理観を持った経営理念の実践がポイントであると考えています。そして地域密着・地域貢献、コミュニティ形成と長期的観点からみた経営はまさにその中心的な実践方法になります。
【POINT】 ➡「地域への愛着」と「理念経営」の実践が日本的経営=長期安定経営を生む
地域に愛着をもっているか
まず、地域工務店が家造りをしている地域環境を理解し、人々との交流を深めながら愛着を持つ事は営業上も教育上も大変重要です。地域工務店はデザイン・性能・素材にこだわりをもった家造りをするのは当然のこと。そして、それと同等以上に地域に愛着を持ち、地域の人と人とのつながりを重視する必要があると考えます。
業態的に営業エリアに密着・貢献していない地域工務店の長期的な経営の安定はないでしょう。現代社会において、人と人とのコミュニケーションが希薄化したと言われ、さらにコロナ禍によってそれは顕著になっています。地域ビジネスでは過去より人的つながりを重視した経営はなされてきましたが、時代も変わりこういった繋がり方が浅くなってきている企業は多いのではないでしょうか。地域工務店のように限定されたエリア内で家造りをするような業態はコミュニティ形成が非常に重要です。
そしてこれはただ商売のためにやるというのではなく、自分が住んでいる地域への愛情を持ち、地域の家造りに貢献するのだという使命感を持って事業に打ち込む意気込みがある事が前提です。事業をするには利益も大切ですが、その前に社会的に正しい事をやるという考え方があるからこそ、一生懸命になれるのではないでしょうか。
1.三方よしのコミュニティ形成
地域に愛着をもって事業を推進するには『三方よし』といった協調的な関係性が必要になります。利害関係者の有無にかかわらず分かり合える仲間をいかにたくさん作っていくか(=コミュニティを形成していくか)がポイントになるでしょう。
まさに日本的経営を実践する事になりますが、地域内の共存共栄を目指し相互理解を図っていくという事です。例え相反する立場であっても、価値観の違いがあっても、地域の皆さんと折り合いを付けながら『うまくやっていく』事が事業の安定的成長を生みます。
先ほどの話にも近いですが、現代社会では人間関係が希薄化し、商売だけが目的のコミュニティやSNSだけでのつながりなど以前とは違った関係性が生まれています。それはそれで良い点もありますので、併せて地域のコミュニティを再構築し、その輪の中心となる地域工務店が出てくるべきだと考えています。地域のまちづくりや家造りを担う工務店は本来地域コミュニティの中心にあるべき業態です。コミュニティ形成のためには、特に下記のような実践が必要なのではないかと考えています。
・地域団体への社員の積極的な参加
・地域イベントへの積極的な参加
・OB向けイベントの定期的な開催
・協力業者会の設立と活性化
・社員&協力業者家族会の開催
これらは一見何の変り映えもしない内容に見えますが、腰を据えてしっかり実践していくとジワジワと効果が表れてくるものです。やがて事業の継続性を高め、地域になくてはならない工務店になっていくでしょう。
2.地域工務店による地域活性化
コミュニティ形成が進むと地域工務店は多様な提案をすることが出来ます。一般住宅の新築・リフォームだけではなく、店舗や社屋など非住宅の設計施工や不動産開発や売買仲介など、営業エリア内の様々なビジネスチャンスに遭遇する事になるからです。無理に営業活動をせずとも人的つながりのなかから多くの案件が生まれてくるようになります。
いずれそれは地域工務店を中心とした地域活性化へとつながります。つまり仕事をもらう側から仕事を創出していく側になる事でコミュニティ(≒地域)が活性化していくのです。必要に応じ声をかけてもらっていた状態からコミュニティのなかから街のニーズを吸い上げて、時には人と人を結び付けたり、売りと買いを成立させたりしていけば地域の活性化と共に事業が拡大する可能性が高いと言えます。
自社だけが儲かるというよりはコミュニティごと良くなっていく事は多くの共感を得やすく、それ自体が更なる認知度向上やブランド化にもつながっていきます。まさに共存共栄戦略です。そのメイン手法としては、下記があると考えています。
・ドミナント戦略(認知度向上と共に自社のセンスを見せ世界観を作り上げていく)
・隣接する業態で多角化する(不動産・リフォーム・非住宅などを複合的に組み合わせる)
・行政や大学などとの連携(人材確保と育成の仕組みづくり・公共性を持たせる)
こういった具体的手法については、現在の業態や業況と共に戦略的な仕組みづくりが必要となります。当然のことながら創業者か承継者か、将来的に事業に対してどう考えておられるかで、実践すべき内容も変わってくると思います。
3.健全経営と適正な業績開示
コミュニティ形成が進み地域からの信用力がついて業容が拡大していくと、今度は地域から注目される企業へと成長するフェーズへと移ってきます。こうなると、地域の代表的な企業としてそのありようをしっかりと示す必要が出てきます。
まさにここでは『どのような考え方で、どんな事業をしているか』という事が問われます。地域工務店として信用力(健全な財務体質 ➡【第11回】)と共に、地域からの信頼(健全な考え方への共感)を得られるかどうかという段階です。(構築の手法についてはこれまでの【第2回】~などを参考にしてください)
ここでは下記のようなことが重要になってきます。
・経営理念の開示と言行一致
・働きやすさ・働き甲斐の創出
・取引業者や金融機関への定期的な業績開示
・アフターメンテナンス体制の充実
事業の推進にあたり、まずは理念経営の明確化がその第一歩である事は言うまでもありません。確かにビジネスの世界ではいかに利益をあげるかというところに評価基準のひとつがあります。これをさらに進めて、理念実現をするために安定的に利益を得る、つまり理念=目的・利益=目標という事になるでしょう。
二宮尊徳は「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」と伝えています。経営理念をもとにした経営こそが健全な地域工務店を生み出すと私も考えています。
一方で『どれだけ急成長を遂げたか』などいかに短期間で多くの利益を得たかというものさしもあります。確かに必要な考えであるとも感じますが、短期的成長だけが評価の尺度ではないはずです。実際には、長期安定的な経営のうえに会社の信用が生まれ、更なる成長が望めるのではないでしょうか。つまり(特に地域工務店という業態は)単純に儲かればよいというものではなく、長期的経営の原資である人の育成・地域への愛着といった企業理念が土台になってこそ商売(工務店業)ができるのであるという考えも可能ではないでしょうか。
それはすなわち長期安定経営=日本的経営であり、人を大切にする経営の実現は、多くの方々から共感を得るでしょう。まさに理念の実践と利益の獲得の両立こそが結果的に私たちに求められている事だと考えられます。
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