[第14回] 事業承継の手法と課題 (1/2)

2022/02/0410:22396人が見ました

[第14回] 事業承継について①(全2回)

 SOLT.の青木隆行です。前回(と前々回)は、工務店に必要な長期安定経営の視点を解説し、そのヒントとして「日本的経営」がなぜフィットするのかを説明しました。

 今回と次回は、事業承継について解説していきたいと思います。

 一言で事業承継と言っても、いくつかの手法があります。また、事業承継は人の感情も入り混じってすんなりと行かない事も多いようです。今回は、私自身が先代から事業を受け継ぎ17年工務店経営をした後に、M&Aをして事業譲渡をした経験も踏まえながら、事業が継続することの重要性と事業承継について考えてみます。

 

1.事業承継の手法と課題

 まず(残酷な言い方かもしれませんが)経営者の命には限りがあります。事業が継続していればいつか必ず来るのが事業承継です。現経営者の皆さまはこの現実をしっかり受け止めて、事業承継のタイミングやイメージを明確に持っておかれるべきでしょう。現在、全国の社長の平均年齢は62.49歳だそうで、社長の高齢化は年々進んでいるそうです。高齢化と共に経営判断が鈍ってくる事も問題とされていますが、それよりも問題なのは中小企業の2/3が後継者不足に悩んでいる事です。後任へ引き継ぐ責任を果たす事は、今をうまくやっている事よりも大切だとも言えます。

 さらに工務店業界の事業承継にフォーカスして考えてみましょう。業界の外部要因を考えると住宅着工棟数の減少が挙げられます。国内は少子高齢化が進み1995年に163万戸あった住宅着工棟数は2020年に81万戸と、25年で半減しています。またこの数十年では法令規制の強化も進んでおり、以前は許されていた事も法令違反となるケースも多く、今後も住宅性能の向上やコンプライアンス順守、SDGsの推進なども必要です。併せて人手不足。特に現場監督の減少は顕著であり採用難易度は高まる一方です。顧客側もインターネットの普及と共に得られる情報量は工務店とほぼ同等となっており、デザイン・性能など顧客対応への要望も高まっています。このように、経営難易度は益々高まっていくでしょう。すなわち、事業承継の難度もこれまで以上に高まっていくと考えられます。

 一般的に事業承継には、①親族内の承継 ②親族外(従業員など)の承継 ③第三者への承継(M&A) ④上場の4つのケースがあります。次章でそれぞれのメリットとデメリットについて見てみます。

 

2.それぞれのメリット・デメリット

①親族内の承継

 中小企業の多くは親族内での承継を前提に考えている経営者が多いように感じます。親が自分の会社を子供に託したいという気持ちは本当によく分かりますが、前述のように工務店業界には様々な外部要因が事業の成功に関係しており、それを多方面から判断しなくてはならないため、血縁関係だけで事業が営めるほど簡単な世の中でもないのではないでしょうか。

 併せて、環境や価値観の変化から必ずしも事業を継ぎたいという親族ばかりではないのも現実です。ですが、経営者として明確な考え(理念)を共有し、しっかり経営するという確固たる親族間の約束があるのであれば、これに勝るものはありません。時間をかけて経営者としての教育をすることも可能ですし、イズムの継承をスムーズに行う事もできます。但し、親族間の承継は感情論にもなりやすいので受け渡す側の明確な方針決定も必要です。またここでは株式の譲渡に関してもポイントになります。株価の算定を行い、場合によっては相続時一括精算課税方式を含め検討する事も必要です。将来を見据えてホールディングス化によって事業承継を進めるなども可能です。

 いずれにしても、事業を受け継いだ人が経営しやすい環境づくりが出来るよう、資本政策なども明確にしておく必要があるでしょう。

②親族外(従業員など)の承継

 親族内に適任の後継者がいない場合、中小企業では役員や従業員への承継をするケースがあります。事業に精通した人材が事業を引き継げば、社内外からの信用度も高く比較的円滑な事業承継が可能だとも言えます。

 デメリットは、株式を買い取ってもらう形であれば資金面でのハードルがある事や、金融機関に対する個人保証をどうするかなどでしょう。このケースのパターンとして、創業家を大株主として、社員が経営者になる事も考えられます(経営と資本の分離)が、中小企業においてこの形が何処まで浸透するかも含めて、親族外で事業を承継する経営者の責任は大きなものとなります。

 

 上記①②に関しては、後継者としての教育が一定期間必要になります。いきなり経営者をやれと言われても出来る覚悟は必要ですが、できれば後継者の能力や経歴など、状況に応じて一定期間(3年~10年程度)は教育が必要でしょう。

 

 ③第三者への承継(M&A

 M&Aとは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略で、他社に買収してもらう形で事業承継を進める方法です。後継者不足なども踏まえ、またここ数年では中小企業も積極的に進めている事業承継の形です。譲渡する側は適正な譲渡益が発生するので、次のステージでの計画(老後・再チャレンジなど)が立てやすくなります。企業同士のシナジー効果が出れば成長を目指すことが出来ますし社員の満足度向上にもつながるでしょう。逆に企業理念など価値観や組織風土に隔たりがある場合などは良い成果が得られないケースもあります。

 ④上場(IPO)

 全ての企業にあてはめられる事ではありませんが、上場による事業承継という形もあります。実現できれば株主はキャピタルゲインを得られ、上場企業として認知度も向上するので人材確保にもつながります。逆に上場には相応の準備(仕組・資金など)も必要であり、成功確率は高くはありません。

 

 いずれの方法を選択するにしても、事業譲渡が可能な盤石な企業基盤づくりが重要です。冒頭では現経営者が事業承継を戦略的にとらえておくべきだとお伝えしましたが、社長を交代できない裏の理由として個人保証が外せない、退職金が充分に支払えない等、本当は引き継ぎたくても引き継げない理由がある場合も少なくないでしょう。

 こういった場合は、現状を踏まえて何年でどのように事業承継をしていくのかを検討する中期経営計画が重要です。

 次回も事業承継をテーマに解説します。

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