[第16回] 高性能住宅は基本。+ライフスタイル型の家づくりを

2022/04/2509:02149人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。現代の工務店経営に必要な、また成功のための近道である「ソーシャルグッド」な経営術。それをお伝えする全6回の「三方よしの工務店経営塾」が5月から新建ハウジングさん主催で開催されます。私がメイン講師です。

体質改善を目的に、少数で講義とディスカッション、復習・課題提出を通じて、リアルで実践的な学びを目指します。

三浦さんがカリキュラムの内容と目的を解説してくれている動画も公開されているので、ぜひこちらご覧の上ご参加ください。

https://www.s-housing.jp/archives/266185

 

性能強化に進む現在の住宅業界だが……

 

住宅業界は現在、材料高・人手不足に金利上昇懸念など多くのマイナス材料があります。コストアップへの心配がある一方で、住宅性能の強化にかなりウェイトが置かれています。住宅性能表示・住宅性能評価に始まり、特に断熱性・耐震性における議論が活発になされており、すでに年間に建つ住宅の1/4は住宅性能評価がなされる時代になりました。

私は建築士ではありませんが、地域工務店向け経営アドバイザーとして、また住宅業界に長く身を置くものとして住宅性能や設備仕様については耐震等級3・UA値HEAT20 G2グレード・太陽光発電+自然素材を最低スペックとするようにお薦めしています。イニシャルコストはかかるものの、コストアップ分はランニングコストで吸収可能であり、また長期的に見て住む人の健康に与える影響も大きいと考えています。工務店経営者時代、私は太陽光発電や住宅性能に偏った家づくりに否定的でしたが、いまは考えを改めて、『住宅性能+ライフスタイル型』をお伝えするようになりました。

 

高性能は当たり前の提案になりつつある

 

 考えると住宅業界では何年かの周期で住宅性能に関するブームのようなものが起こっているのですが、これは住生活水準の向上に必要な事だと考えています。そもそも日本の住宅は断熱性能が低いと言われて久しく、これはそもそも施工業者側の知識不足や住宅施工ノウハウの問題、そしてサッシや断熱材を中心とした建材コストアップにより住宅価格が高額化しすぎる懸念があったのだと思います。

 過去、高断熱高気密住宅は魔法瓶のようであり、高温多湿で四季のある日本の気候風土に適さないという意見もありましたが、それはまったく過去のものとなりました。現在は施工レベルも上がりノウハウも蓄積されていますので、良いものを長く使うというSDGs的な観点からも高い住宅性能は提案に必須でしょう。

 

 性能訴求は義務として続けていく

 

 1996年の163万戸をピークに、国内住宅着工棟数は減少の一途をたどり、この25年でおよそ半減。このなかで住宅会社各社は、付加価値を高める取り組みを続けてきました。要は棟数が減るので単価を上げようという話です。それだけが理由ではありませんが、このなかで注目されたのが住宅性能の向上。この流れはある意味必然なのかも知れません。

 

 

 家のなかの温度差が原因で心筋梗塞などを起こすヒートショックの死者数は年間17,000人とも19,000人とも言われます。これに対して2021年の交通事故死者数は2,636人。家のなかで亡くなられる方が交通事故のおよそ7倍にもなっており、これは住宅の断熱性能が低い(良くない)事が問題であると言われています。

 また、1995年以降阪神淡路大震災・東日本大震災・熊本地震などの大地震が続き、今後南海トラフ地震が予想されている日本において耐震性能を確保は必須になっています。直近でも震度5前後の地震が全国各地で発生しており、命を守るという意味で地震への準備は工務店の責務です。

  高性能住宅は災害時などにも強い、いわゆるレリジエンス性の高い住宅になります。これらの理由から、これから家づくりをされる方へは性能の低い住宅ではなく多少費用が掛かっても性能・素材・デザイン・間取りなどを重視したハイスペックな家造りをお薦めしていますし、リフォームの相談がある場合も断熱リフォーム・耐震リフォームなどの性能向上リフォームをお薦めしています。

 

性能訴求だけでは「伝わらない」 

 

 しかし、私は住宅性能の向上だけでは充分な家づくりだとは思えません。人が住むのですから、住む人のライフスタイルを反映した家づくりが必要です。

 住宅性能を重視している住宅会社や設計事務所であっても、デザインが良くなかったり住み手の事を考えた間取りではないケースを散見します。例えば住宅性能を追求するとエンジニア的なデザインになることがありますが、性能を求めるあまり当事者がそのデザインがお粗末な事に気が付かない(あるいは、気付いていてもトレードオフだと考える)のでは、エンドユーザーからはそっぽを向かれるでしょう。デザインと性能を両立できるセンスのある住宅会社・設計事務所である事をお薦めします。ユーザーにとって性能の高さとデザインは両立するものであって、プロなら当たり前に可能であると考えているからです。

 また別の観点から、当然アフターメンテナンスについてもしっかりとした体制をとる必要があるでしょう。つまり、性能は住宅そのものに求められる基本スペック(必要条件)であるだけで、十分条件ではありません。当然性能設計だけでは足りず、それを長持ちさせるような対応が出来る住宅会社の施工&アフターメンテナンス体制も求められるのです。

 

誰に・どんな家を・どのように?を明確にせよ

 

 住宅性能はライフスタイルを実現するための土台のようなものであり、そのうえに住む人の生き様(=ライフスタイル)を乗せていく事が良い家づくりにつながると考えます。工務店経営者がどのような家づくりを提案するかはどのような人生を提案するかという事ですので、『誰に・どんな家を・どのように』つくっていくのかをより明確にしたうえで、性能は当たり前の時代をつくっていく責任があると思います。

 次回はこのあたりのペルソナ設定の考え方について、詳しくお話しします。

 

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