[第23回] 地域工務店の経営戦略の実例⑨『育成』

2023/02/1519:0470人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。新年を迎え早くも2か月が経過しました。1月から3月は他の四半期と比べ営業日数も短く、また年度末に向けて何かと気忙しい時期です。住宅業界では季節柄営業/工事工程が伸びてしまいがちなところもありますが、『年度末』という期限設定が入りやすく心理的にも逼迫感が出ますね。加えてゴールデンウィークなど集客の時期を控えていますので販促企画も必須です。まさに『猫の手も借りたい』と言ったところでしょう。

【前回】➡地域工務店の経営戦略の実例⑧『採用』

 このような繁忙期には社員の皆さんの頑張りが不可欠ですが、とかくオーバーワークになりやすく働き方改革とは程遠い状況になります。工務店の永遠のテーマである受注・工事の平準化が出来れば最高なのですが、そう言う訳にもいきません。この『波』に悩んでおられる工務店は多いででしょう。『波』が癖になってしまうとその悪循環から抜け出すには早くても2~3年かかってしまいます。ですが業績を維持しながら『波』を平準化する特効薬はまず存在しないと言っていいでしょう。

 

工務店の人財育成には6W2Hが必要

 そんな悪循環を打破する打ち手のひとつとして、長期的な社員の育成(実力を上げる)と評価(適正な評価・エンゲージメントの向上)が挙げられます。特効薬ではありませんが、時間をかけて取り組めば足腰の強い組織づくりができていくからです。

 前提として良い人財を採用したなら、その財産を計画的にしっかり育てていく経営者の覚悟が大切でしょう。植物の種を植えたとしても水や肥料をやって手をかけなければ育ちません。確かに自生する植物もありますが、放置していても自生する能力をもった宝石のような人財は、100人中1人か2人と言ったところでしょう。

 工務店では職種別の育成計画をつくり、定点観測をしながら予実フォローしていく事が求められます。つまりそこには明確な意図のある人財育成の設計図が必要です。

 家造りと同じで人財育成の設計図づくりには『6W2H』があると深みが出ます。『だれが・だれに・いつ(までに)・何を・なぜ・どこで・どのように・いくらで』を計画しきちんと育てていくと良いでしょう。また人財育成は子育てのようでもあります。子育てを学校の先生や学習塾にすべて任せることはできません。経営者は採用した人財を立派に育て上げる環境づくりを自ら主体的に行わなければなりません。

 しかし意外なのは人財育成の設計図を作成されていない企業が案外多いことです。サポートやガイドラインなどがない場合は、社員は何を基準にしていいかが分からず迷ってしまいます。あまりに放置され過ぎると離職の可能性も高まります。例えば、急拡大した企業で人材マネジメントの仕組み化が進んでいないとか、小規模工務店では属人性が高いがゆえに実務に終始し教育係も不在で仕組み化には手つかずという事も少なくありません。いくら社員とコミュニケーションをとっていても、社員が自分自身の将来が見えない場合は迷いが生じてしまうでしょう。

 そもそもですが、人材マネジメントに重要性を感じていない経営者はいないはずなのです。しかし往々にして目先のことに必死で人財育成にリソースを割いていないケースがあります。しかし事業の継続的成長・中長期の経営戦略を描くときにはまず計画的な採用と人財育成が非常に重要になるので、収益の一部をコツコツこれに回しておく必要があるのです。

 

「一人前とは何か」を設定する。

 より具体的な話をしましょう。まずは育成するために社内で一人前の定義を決める事です。営業職であれば年間何棟受注を何年継続すれば良いのか。設計職であれば、年間で何件のお客様にプレゼンができるか、どれくらいの時間ですべての実施図面を作成できるか、などの基準を設けて、一人前とはどういうスキルとマインドを持った状態かを明確にすることです。

 そしてどれくらいの期間をかけて一人前になるのかという計画を立て、個別にキャリアプランシートを作成し1~3カ月ごとに予実サポートしていく。これは人財育成をガチガチの管理型にするという事ではなく、話し合いを交え自主性を考慮しながら進め、その行程で達成感を味わってもらうという効果も重要です。

 このような関わり合いを大事にしながら一人前になるまでをサポートすれば、今度は次に入社してくる社員をサポートする社員が必ず増えます。数年間腰を据えて実践すると人財が群生していく仕組みができていることが実感できるでしょう。

 ポイントは、教えることが出来る・サポート出来る社員が企業の成長には必要だという事です。中小企業の管理職の多くはプレイングマネージャーです。若手の先輩社員も新人のことまでかまっていられず放置される、というケースは人手不足の昨今よく聞く話です。次回の「地域工務店の経営戦略の実例⑩『評価』」でもお伝えしますが、プレーヤーとしての個人数値だけではなく教育係としての部門評価をしてあげる事も主要なポイントとなるでしょう。

 

「人を遺すは上策」

 さて、ここまで育成に関する概略を述べてきました。しかし、経営者の皆さんは常に社員の離職のリスクに苛まれているかもしれません。今の世の中、手塩に掛けて社員を育てても新卒3年で半分以上が離職をする時代です。経営者が疑心暗鬼になっても仕方がないとも言えます。しかし、だからといって採用した人財の育成をやめてしまうというのも違います。ここで取る手段は2つ。

そもそも採用せず、外部パートナーとの連携を深める。

自社の理念の明確化から圧倒的ブランド化を進めて会社の魅力を最大化する。

 ①のパターンを取った場合は、一定期間の高い収益性は見込めるでしょうが、人財育成は進みません。現存の社員が高齢化しいずれやってくる「店じまい」をどうするかを考えておかねばなりません。情勢を見ながら早い時期に経営統合やM&Aを検討するのも一つかもしれません。

 他方で②を選択した場合は、地域に根差した工務店として不動の地位を獲得するチャンスがあります。②の最大のポイントは社員が辞めない(仕組みをつくる)事。①も②も、どちらの選択が正しいという訳ではありませんが、後者の方が人財育成をする価値を見出し、人を遺すことが出来るのは言うまでもありません。

 現在は外部環境もマイナス要素が多いですが、経営層も働いている社員も本当は結束して前に進める状態を望んでいるはずです。それを作り出すためには人材マネジメントはもちろん、全社戦略を見直す必要が出てきます。会社の将来への期待や個人の成長に対する喜びが大きな力となった時、人口減少・住宅着工減の厳しい外部環境のなかでも経営者の不安は一気に解消される可能性はまだ残されていると思います。

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