[第24回] 地域工務店の経営戦略の実例⑩『評価』

2023/03/1410:28103人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。2023年に入ってから、工務店に必要な『採用』『育成』と人材マネジメントにおける要素を項目ごとにお伝えしています。今回は『評価』についてです。

【前々回】➡地域工務店の経営戦略の実例⑧『採用』

【前回】➡地域工務店の経営戦略の実例⑨『育成』

 

 最近よく評価制度について相談を受ける事があります。そもそも人材マネジメントとは、企業が目的(=理念)、目標(=業績)を達成するために構築するべき人材に関する仕組みです。この人材マネジメントが注目される背景としては、まず少子高齢化による人材不足・採用難があげられます。我が国の生産年齢人口( 15~ 64) 1995年の約 8700万人をピークに 2015年には約 7700万人まで、およそ 1000万人減少しており、慢性的な人不足に陥っています。

 建設業就業者においても685万人(1997)→498万人(2010)492万人(2020)13年で193万人も減少しているのです。加えて建設業就業者のうち55歳以上が約36%、29歳以下が約12%2020)となっており、高齢化が進行し次世代への技術承継が大きな課題ともなっています。(下図は国土交通省HPより抜粋)

 

 大変厳しい環境のなか、やり甲斐を創出し人的資源を活かした理念の実践・業績目標の達成が求められており、その根幹となるのが人材マネジメントと言えます。そしてその基準を最も明確に伝えることが出来るのが『評価』です。これが今回のテーマとなります。『何をどのようにすれば社内で評価されるのか』を職種・階層で明確化することで、より効果的に業績を維持向上させ理念の実現に向かうことができます。

 一昔前はトップダウンの経営者についていけば何とかなるという経済環境などから評価基準は多少曖昧であっても何となく済まされていました。しかしVUCA時代に入り多様化も進み、経営環境の変化からも現代ではそうもいきません。

 人材マネジメントにおける評価に関して、どのようなステップを踏めば良いか、私自身も過去工務店経営者として数百万円を投じ評価基準や報酬制度を構築した経験がありますので、いくつかポイントをお伝えできればと思います。

 

どうあって欲しいのか=評価基準の明確化

 人材マネジメントを運用するうえで、社員に主体的に働いてもらうよう促すことは非常に重要です。採用後、どのように育ってもらいたいかを報酬と関連付けるのが評価ですので、経営層が中心になって明確な評価基準をつくると良いでしょう。採用も育成もそうですが、中小企業であれば必ず経営層が人材マネジメントに関与しなければなりません。

 少し会社の規模が大きくなったからと言って人任せにしていると、経営層の意図を反映した評価基準にズレが生じる場合があります。もちろん社内の主体性を重視しながら、『任せて任さず』の姿勢を保つ(定期的なチェックとフィードバック)事をおすすめします。

 評価基準を構築していく際には、例えば『経営理念に基づいて業績を上げるとはどういう行動をとる事なのか』を詳細に示してあげる事が必要です。

 私は理念に基づいた経営は仕事に意味づけ・価値づけが出来ると考えています。手段を選ばず社内の和を乱して業績を上げても良いはずはありません。稲盛和夫さんも人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力とおっしゃっているように、「会社が大切にしている事・将来のあるべき姿である理念に沿って業績をあげる仕事が評価される」というのが社内に分かりやすく浸透するはずです。

 もちろん企業は売上・収益を得てはじめて継続しますので、理念重視で業績が上がっていない場合どうするのかも明確化してください。例えば基準として『全社・グループの業績目標達成度×個人業績目標達成度×理念実践度』と明確化し、個別の項目を細分化し評価基準をつくります。あわせて、職位や職種に応じてどのようなスキルや考え方が必要になるのか=どうあって欲しいのかなどを分かりやすく明示してあげる事が重要です。

 

客観的かつ適正な評価とその項目

 評価基準が決まれば、その基準に基づいて成果に対して客観的かつ適正な評価を行います。ビジネスマンは結果が全てではありますが、成果とともに過程を評価する要素も加えるとモチベーションやエンゲージメント(帰属意識)を高めることができるでしょう。

 客観的かつ適正な評価をする項目を例示すると下記のようになります。大きく分類すると、数値で表せる定量的な項目と、数値では表せない定性的な項目があります。

 

⑴会社の業績および個人の業績目標達成度(個人の業績だけではなく、全員で目標達成のため協力する風土をつくる)

⑵業務改善やミス削減

⑶理念実現に沿った行動の内容(協力・チャレンジ・支援・成長・感謝など)

⑷職位・職種ごとの要件(育成実績・リーダーシップの発揮・資格・経験など)

⑸その他業務遂行に必要な評価要素

 

 定量・定性を問わず、行動した事実は客観的に確認できます。行動から類推して、能力・意欲を評価し、相応しい知識・スキルなどがあれば昇進・昇格・昇給に反映させると良いでしょう。

 さらに、地域工務店における職種ごとの評価項目には下記のようなものがあります。これらの詳細項目を理念やKPIとあわせて決定していく形がよいでしょう。

 

⑴職種ごとの評価項目

・営業:受注棟数/完工棟数/売上高/完工粗利/OB満足度/資格(FP・宅建・建築士など)/営業知識/顧客コミュニケーション力

・設計:受注プラン数/受注率/OB満足度/設計スキル/資格(建築士)/プラン力/詳細図作図力/顧客コミュニケーション力

・現場監督:完工棟数/完工高/完工粗利/OB満足度/資格(建築士)/協力業者との連携力/顧客コミュニケーション力

 

⑵社員としての評価項目

・会社全体の業績を意識した行動

・顧客/他部門/協力業者との健全なコミュニケーション力

・部下を育成する能力(部下社員の成果)

・業務の効率化や顧客満足度向上を目的とした業務改善

・社内の組織風土改善に向けたリーダーシップある行動

 

つくったら終わりではない

 至極当たり前の話ですが、評価制度は基準をつくったら終わりではありません。作った後も報酬制度に関連付けた評価制度を整備したり、育成のための教育訓練の拡充を図ったり、適材適所の配置を考えたりしながら最適化を図っていく必要があります。しかし、評価制度の作成にパワーを使ってしまい運用する事ではなく作る事が目的になってしまうケースも少なからず見かけます。

 経営者は01発想の人も多いため、制度をつくると飽きてしまい持続性がないという根本的な課題が浮き彫りになる事もあります。どれだけ立派な評価制度をつくったとしても、適正な運用がなされなければ作らなかったのと同じ。評価基準が社内で明確になり、狙った形で組織風土が醸成されるまで腰を据えて継続させる事が必要です。

 そのためのポイントとしては下記があります。

・誰が運用するのか責任者を決めておく

・社長の独断で改廃しない

・評価制度を継続して3年やってみる

・定期的に改善会議を行う

・外部の意見も聞いてみる

 評価制度は働き方や考え方など時代の変化と共にマイナーチェンジしていく事も想定し、作成と運用の両方にリソースが割けるように計画しておく事を強くおすすめします。

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