SOLT.の青木隆行です。
近年、住宅業界では人口減少・デジタル化・法律の厳格化・顧客ニーズの多様化、住宅の高性能化などによって下記のようなことが浮き彫りとなっています。
・新築住宅着工減
・人材採用難
・設計施工の難易度向上
・工務店と顧客との情報格差消滅
2000年代から本格的にインターネットが普及しはじめ、2010年代にはSNS/YouTubeが広がりました。コロナ禍を通じてさらにデジタル化が普及し、いつでもどこでも簡単に仕事や調べものができる時代がやってきました。また2014年頃を境に国内の新卒採用は一気に売り手市場に変わりました。この10年で新卒・中途共に市場環境は激変しています。
住宅業界では2000年の品確法施行以来、少し時間はかかりましたが住宅性能表示制度が普及しました。これによって新築性能のハードルが高まり、より高度な技術力や建築知識が求められるようになりました。DX・人材確保・性能強化・ブランド化などいま地域工務店経営は様々な面で対応が迫られています。そしてこれらは一朝一夕には対応し難く、社内に蓄積している人材力・ノウハウ・技術力やそれを育む組織風土といった『見えない資産』がモノをいう時代になっています。まさに優勝劣敗、底力を試される時代が到来していると言っていいでしょう。
そんななかで、地域の中小工務店の戦略として以前から『地域工務店のハイブリッド化』を提案しています。『新築住宅+分譲住宅+不動産(+リフォーム・リノベーション』という狭義の多角化を、営業エリアを広げ過ぎずに展開していくという戦略です。多角化において隣接する業態はシナジー効果を生みやすく、またエリアを絞って行うことで経営資源の効果的な投入が実現できます。
今回は、新築注文住宅をメインとしてきた地域工務店がこのハイブリッド化を推進するにはどうすれば良いかを考えてみました。一言で言えば『不動産事業をスタートさせ、コンセプトハウスをつくる』ということになります。
ステップ1 狭義の多角化=不動産事業を始めよう
前述のとおり、これから更に地域中小工務店の経営難易度は上がると考えています。人材難・デジタル化や原価高騰などからゲームのルールが大きく変わっているので、ルールに合わせた戦い方が求められているのです。しかし地方の中小工務店では、DXだとか垂直統合による大幅なコストダウンなどのドラスティックな対策はなかなか取り組めません。そこで今の営業エリアにしっかり根を張ってできる経営、顧客満足度を向上し収益をあげていく方法の一つが「ハイブリッド」化だと考えています。
その第一歩としてはまず不動産事業をはじめるべきだと考えています。土地分譲・売買仲介・賃貸管理といった不動産会社としての機能を持てば、関係の深い新築住宅事業とシナジーが生まれやすいからです。地域密着で信頼性の高い工務店が不動産事業を行えば仲介事業や賃貸管理も入りやすく展開すれば足腰が強く収益性のある会社になりやすいと考えています。
この不動産事業から、更に分譲事業へと展開していくことで、新築事業に幅が出てきます。新築メインの工務店は今後の新築マーケット縮小を見込んでリフォーム事業を展開するケースが見られます。確かにリフォーム市場は今後横這いから微増の予測ですが、やはりレッドオーシャン市場です。また新築と比べ単価が低く、新築と同等以上に手間のかかる工事も多いことなどから、思うように収益化や事業展開ができていない工務店も少なくありません。ですので、リフォーム事業を展開する前に、まずは不動産事業を展開することをお薦めします。
ただし、メリットだけではありません。まず不動産→分譲と事業の幅を広げられる人材と資金が必要ですし、不動産の仕入れ力・目利き力・販売力、更には工事の生産性向上といったところがポイントとなります。仕入れ力・販売力を向上させるためには地域の人脈に加え、ブランド力も必要です。
しかしながら不動産事業の参入障壁はそんなに高くはありません。宅建の資格と開業資金があれば事業スタートは可能です。業務管理においては工務店の方が複雑なのでそのノウハウが活かせると思いますが、場合によっては不動産系FCへの加盟も検討されても良いでしょう。また懇意にしている不動産会社との連携も重視しながらコストをかけずにスモールスタートするのも良いと思います。
『住宅会社が不動産事業を始めると既存の不動産会社から嫌がられるのではないか』というネガティブな意見もありますが、むしろこれは逆だと思います。地域の輪のなかに加わりながら誠意のある不動産会社としての地位を確立すれば共存共栄ができる人たちが集まってくると思います。
<不動産事業立ち上げに必要な資源とスキル>
・資金力/財務基盤
・不動産の目利き力
・営業エリアでの人脈
・高い生産性
・ブランド力
ステップ2 分譲可能なコンセプトハウスの開発
2000年代以降、住宅は高価格化してきています。性能やデザイン性が高まったこともあるのですが、住宅着工戸数の減少によりハウスメーカーを中心となって住宅単価を上げていった経緯があると思います。着工戸数が減少するのであれば単価を上げて売上を維持するという考え方は確かにあります。これは我が国の住生活の質の向上と共にマッチしたとも言えます。しかし40年ぶりの高水準でのインフレ下、2019年までは2,500万円前後で建てられていた家が、いまは3,000万円となるなど、黙っていても住宅単価は上がるなかで無闇に高級路線に走るのはやや危険な気がしています。「高級な注文住宅を建てられる人は激減している」というのが私の実感です。こんななかでの解決策もハイブリッド化がカギを握ります。
ハイブリッド工務店を目指すにあたり、不動産事業をスタートさせるタイミングでコンセプトハウスを開発されることをお薦めします。コンセプトハウスとは自社の理念やブランドを象徴する『パターン化はしているけどカスタマイズ可能な住宅』です。これはアパレル業界で言えば、『パターンオーダー』になります。数タイプの形と生地からパターンを選び、自分の体形に合った補正をかけて発注するという形です。ちなみに『フルオーダー』が注文住宅、『プレタポルテ(既製品)』がガチガチの規格住宅や既に建築された分譲住宅に位置します。
コンセプトハウスをつくるにあたってまずやるべきことは、顧客(買い手)の要望にしっかり耳を傾けることです。共通する項目をできるだけ採り入れたうえで(逆に割り切るところは割り切って)自社の理念に適したコンセプトを決めて作り上げていきます。FC・VCなどもありますが、基本的に自社の社風やイメージと合っているのかをちゃんと確認して下さい。
ここで注意してほしいのは「コンセプトハウスと規格住宅は似て非なるものだ」ということです。工務店の勝手な都合だけで決められた住宅が規格住宅で、自社の理念や強みを反映しつつも顧客の要望を重視した住宅がコンセプトハウスです。また規格住宅は価格の安さをウリにしている場合が多いですが、コンセプトハウスは必ずしもローコスト住宅ではありません。
実はこのコンセプトハウスをつくることで、分譲事業の展開が加速し不動産事業とのシナジーを産みます。併せて施工品質の向上・人材育成の強化・ブランディング・マーケティング強化・コストダウンや生産性の強化など派生する多くのメリットが生まれてくるのです。そしてコンセプトハウスは「注文か分譲か」と言った住宅会社の売り方の理論ではなく、常に本質的な家造りを考え、住み手のニーズを捉えながら進めることができます。このメリットを享受できれば多くの課題を抱える建設業界でも地域の中小工務店が活き活きできる可能性が高まります。
ステップ3 信頼ある企業として、局地戦の強みを活かす
もちろんハイブリッド化以外の戦略もありますが、経営の難易度や既存事業の強みを活かした戦略がとりやすいので、ハイブリッド化はおすすめの策だと思います。
ところで、注文住宅事業である程度堅実に商売をされている工務店は、お施主様から前もって資金をもらえるので資金繰りにあまり問題がありません。ただよくあるのは、手元の流動性資金があるからと言ってサイドビジネスに走ったり投資に走ったりすることです。そして難易度の高い他業種に手を出したり、または営業エリアを実力以上に広げてしまうのです。これは多角化のなかでも難易度が高いと言われています。私も工務店経営者時代に、新築着工戸数減少時代を見据えた新たな収益の柱を持ちたいと考え、異業種の事業を営業エリア外ではじめました。結果は芳しいものではありませんでした。餅は餅屋と言いますが、やはりノウハウを持った事業展開や勝手知ったる地域で営業展開をする方が成功確率は上がります。
地域工務店はエリアを限定した局地戦で大手ハウスメーカーと戦うことができます。その営業エリアのなかでしっかりマーケティングを行い、新商品(つまり注文住宅メインであれば不動産とコンセプトハウス、その後リフォーム事業など)を投下していくと、地域の皆さんからの信用は更に高まり、ブランド力が強化されて一層高い信頼へとつながるでしょう。地域のことを熟知した工務店がミニ分譲開発を行い、移動式分譲モデルとしてコンセプトハウスを建設する。一定期間集客し売却する形を繰り返し行えばエリア内の認知度も向上するでしょう。
分譲販売は不動産の目利き力がモノを言うと思います。単に価格だけではなく校区やインフラ整備状況など地元ならではのナレッジを活かして進めます。ブランド力が付けば分譲地にテーマを持たせるなどの付加価値を設けて販売をすれば収益性や回転率が高まる可能性もあります。注文住宅と分譲住宅では販売手法が全く違うので、営業面でもよく検討して進める必要はあると思いますが、うまく展開していけば住宅着工が減少してもまだまだ成長可能であると確信しています。
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