[第26回] 地域工務店の経営戦略の実例⑫『配置』

2023/06/0723:5384人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。この数回にわたって工務店における人材マネジメントについて解説しています。一般的に人材マネジメントの要素として、「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置・異動」「休職・復職」の6つの要素があると言われています。前回までに採用と育成、評価、報酬について解説してきました。今回は人材の配置についてお伝えします。

 

勝つための戦略に基づく適切な人員配置

 2022年に行われたサッカーW杯では日本代表が強豪ドイツやスペインに勝利し、日本中が歓喜したのはまだまだ記憶に新しいところです。日本代表チームの監督・コーチ陣・選手がチーム一丸となり、さまざまなケースを想定してチーム作りをしたのだと思います。下馬評で圧倒的不利と評されておきながら、サッカーというスポーツの特性の上で対戦相手の戦力を鑑み、チームの戦略、個々人の能力や特徴などを当てはめて考え抜いた結果、ベスト16という成績につながりました。これから更に上を目指せるチームに発展することを期待せざるを得ません。

さて、これは私たちの企業活動、とりわけ人材マネジメントにも通じるところがあります。『試合にいかに勝つか』という目標を達成するために、どのような人財をどこに配置するのか。組織づくりにはスキルだけではなく個性や相性なども考慮した総合的判断が必要です。『組織は戦略に従う』という言葉がありますが、人的資源をもとに戦略を立てるのではなく、勝つための戦略を考え抜きそれに適した組織づくり・人員配置をする事が肝要なのではないでしょうか。

 

ルールと戦略を明確にする

 サッカーにルールがあるように、ビジネスにもルールがあります。工務店であれば、建築基準法をはじめとした法令規制が基本的なルールブックとなりますが、これにのっとりどのように顧客と出会い契約を頂いて住宅を建築するかという自社なりの流れがあります。つまり各社のコンセプト・考え方をもとに業務フローを決め、マニュアル化すればいわゆる自社ルールができた事になります。

 大前提としてこれらの社内ルールは理念・パーパス(事業の目的)をもとに作られている事が前提です。社内ルールの上位概念ですので、そこで働く人の考え方の基本となるものを明示し、それを実践する戦略(どのような強みを持ちどんな付加価値を提供するのか)を中長期的に考え、その戦略にもとづいた人材を見つけてきて採用・育成を行い、配置をすることになります。特に中小企業では理念を明確化しCIVI/MI/BI)を体系化する事で採用力や社員のエンゲージメントが上がる傾向が強いので、理念に基づいた戦略をベースにして適切な人材マネジメント(採用・育成・評価・報酬・配置)を構築する事をおすすめします。

 コーポレートアイデンティティーの図解

人材配置・戦略どちらも体系化されたCIが前提となる

 

組織は戦略に従う

 冒頭で『組織は戦略に従う』とお伝えしました。逆に『戦略は組織に従う』という言葉もありますが、ここで述べたいのは今いる人員で何をするかという事ではなく、掲げた理念やパーパスの実現可能性を高めるためにどうするか、です。私は掲げた理念に基づいた戦略を実行するために必要な人を採用・育成し配置する事が大切だと考えていますので、中長期的な視点から組織づくりが必要になるのです。

 中長期的な人財戦略を考えていない場合は年齢分布にバラツキが出たり、スキル格差がある組織になりやすく、チームの脆弱化を招いてしまいます。『人的資本経営』を重視する流れがあるなかで中小企業の人材強化は急務なのですが、若年層の減少などから採用難易度は格段に上がっており、また育成するまでに相応の時間がかかる事を認識し計画する必要があります。そのために今の組織を見直し、少し時間はかかりますが戦略に従う組織づくりをしていくと良いでしょう。

他方で、例えばトップダウン型の中小企業では社内のコンセンサスを得ないままにコロコロ戦略を変えてしまうケースを見かけます。確かに社長は四六時中自社の経営について考えていますし、不確実な時代のなかでフレキシブルに対応する組織である事も大切な事なのですが、組織や配置がすぐに変わってしまうと社員の混乱を招きかねず、業績や社内の安定感を失うケースがあります。前述した通り、社長は寝ても覚めても事業の事を考えているので常に変化したくなるのですが、理念から戦略を考えた組織であれば腰を据えてしっかり流れを見守る事も大切でしょう。

ここまでをまとめると、人員配置の基礎として、

 ・人材戦略は理念に基づいた戦略に従って構築する

 ・戦略に基づく人員配置は社員のエンゲージメントを高め、中長期的な人材育成・強化になる

 ・組織をコロコロ変えない(どうしても必要な場合は社内コンセンサスを得る)

 

「配置」の最適解を導く5つのポイント

 工務店の人材マネジメントにおける『配置』を考えるために抑えるべきポイントとしては以下の5点が挙げられると思います。

 

1.(新卒)採用は複数名を同職種で配置する。

⇒工務店は営業・設計・IC・工務・経理など職種が複数存在します。新卒採用を行っても各部署に配属が1名というケースは多いでしょう。大企業であれば計画的な集合研修やOJTを行うことが出来ますが、中小企業では育成の工数を割く先輩社員にも相応の労力がかかり、なかなかこれができません。育成の工数に関しては教わる方が1名でも23名でも変わりませんし、同じ部署に複数名の同期がいると心強いという事もありますので、同職種を複数名採用・配置する方が効果的な育成が見込めます。

 

2.なるべく兼務をさせない。

⇒『営業部長兼工務部長』といった名刺を時々頂戴します。よほど能力の高い方であれば施工棟数年間10棟くらいまではこれで行けるかも知れませんが、年間施工棟数30棟以上の実績がある、またはこれを目指している工務店はいますぐ兼務をやめるよう組織づくりする必要があるでしょう。職位だけではなく特に『マネージャー兼プレーヤー』を兼務している場合はより深刻になります。

 兼務をやめると人件費が増えるではないかという意見も聞こえてきそうです。また実力のない営業に任せるのは心配だという声もあるでしょう。確かに目先の受注は落ちてしまうかもしれませんが、中長期的には業績が特定の個人に左右される状況を防止できます。人件費増の部分は収益性の強化や受注増によって賄うという考えを持つべきでしょう。将来の組織を考えた、早めの対策をお薦めします。

 

3.個人の成績やスキルだけでマネージャーを決めない。

⇒『名プレーヤーは名監督にあらず』という言葉があります。個人的能力の高い人はそうでない人の気持ちを理解する事が難しく、チームを束ねる立場になった時に有機的に機能しないケースがあるという事です。効果的な配置を行う時は、チームとして成果が上がるようにした方が目標達成をしやすくなりますので、個人のプレーヤーとしてのスキルや成果だけでマネージャーにするというよりは理念理解度や周りを巻き込む能力の高さなど総合的に検討するべきでしょう。

 

4.ブラックボックスをつくらないような組織づくりをする。(人は善なれど、弱し)

⇒配置と組織づくりは少し意味合いが違います。戦略に応じた組織づくりを行い、そこに適している人材を配置するという事ですので、今回の『配置』というテーマから少し逸れますが、大切な事なので説明する事にします。ここではブラックボックスをつくらない組織づくりを行う事を前提として適正な配置を行う事をお薦めします。確かにみんな自主性を重んじ性善説に基づいて仕事をしてもらいたいのですが、全ての人がいつも強くあれるかは疑問です。クレームや事故、事件にならないよう万が一のことを考えて組織立てを行う事が良いでしょう。

 工務店では各職種で仕事の受け渡しをする事でブラックボックスをつくらないような仕組みと共に各職種で協力体制を構築できるような組織づくりが必要となってきます。

 

5.時代に即した配置

⇒デジタル化が進むにつれて、デジタル知識のある人財が求められています。建築知識がなくとも、理念理解がありデジタル知識があれば工務店には必要でしょう。デジタル化など大きな時代の流れに対応する組織が求められますので、半歩先を見据えて時代に即した組織づくりと効果的な配置が有効です。

 

戦略に沿った配置と明日からのアクション

 前述の5つのポイントを踏まえて、おすすめのアクションをまとめてみましたので、参考にしてみてください。

 1.理念と戦略のまとめを行い、社内ルールと組織図(陣立て)を整合させよう。

 2.コロコロ組織や配置を変えず、腰を据えて戦略実行してみよう。

 3.デジタル化など外部環境の変化に対応する組織をつくろう。

 以上、人材マネジメントにおける他の項目と共に検討を重ねて、目的目標の達成に対して適材適所の配置を行うことを心がければ、新たなステージが見えてくるかもしれません。

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