「意味のあるデザイン」がブランドになる。

2018/11/3013:5410人が見ました

ブランドの価値は、ユーザーにどれだけベネフィットを提供できるかで決まります。長期的なベネフィットを左右するのは「デザイン」。今回は住宅のデザインについて考えます。

 

 「デザイン=かっこいいデザイン」だと思い込んでいませんか。ありふれていようがダサかろうが、モノに形がある以上、すべて何らかの意思に基づいてデザインされています。もちろん住宅もモノですから、我々は日々デザインしているのです。そこで改めて考えなければならないのは「そのデザインには意味があるのか」ということです。

 

ユーザーのベネフィットを考える

 長期間継続して使う住宅は、初期コスト+維持修繕費を含めて考えるべきです。しかし、先を見越して維持費・修繕費を低減できるように工夫した住宅は初期コストがどうしても高くなり、売りにくくなります。かといって、もはや現在の日本は道徳的にもコスト的にも住宅を一代限りで使い切って良い状況ではありませんし、それだけのコストを支払える富裕層は限られています。つまり、我々は住宅のプロとして、また我々自身が生き残るためにも、ユーザーが支払うコストに対して適切なベネフィット(顧客にとっての価値)とは何かをきちんと考えなければならないのです。

 ユーザーにとって真に有益なベネフィットとは何か。多くの工務店は、今この瞬間、ユーザーが欲しがるものをつくっています。でも本当は、結果的にユーザーに利益をもたらすモノをつくるべきです。

 

なぜそのデザインなのか。合理的に考える

 住宅にとって「デザインのためのデザイン」が一番良くないと思います。私は全国のアトリエ建築家と仕事をしていますが、提出されたプランに対して常に建築家に問います。この家はなぜこの形になったのか。どうしてこのような間取りなのか。この壁、この窓はなぜここにあるのか。合理的な理由を教えてほしい、と。同じコストがかかるにしても、単に「見た目が格好いいから」というのと「その形に意味があるから」では話がまったく違います。

 その点インダストリアルデザインは、商売として採算が取れることを見越して量産するため、意味のないデザインには厳しく、合理的で抑制された美しさを持っています。誤解のないよう申し添えますと、オンリーワンのいわゆる芸術作品や手工芸品を否定しているわけではありません。個人的にはむしろ、大好きなものがたくさんあります。

 

家もインダストリアルデザインだ

 家は毎日使うモノですから、広義のインダストリアルデザインに分類されるでしょう。インダストリアルデザインにも美しいモノはありますが、あくまで機能を満たすのが先。そのうえで美しさを求め、結果的に抑制された美しいデザインが生まれてきます。建築も同じで、宗教やコミュニティの象徴としての建物やモニュメントはともかく、住宅は機能が先で美しさはその次。逆はあり得ないと思っています。

 

機能と美しさを両立する

 だからと言って機能を満たしていれば見た目はどうでもいいというわけではありません。毎日それを目にするユーザーにとって、美しい見た目も機能のひとつであるため、機能と美しさは両立しているのが望ましいのです。

 私の工務店では建築家と組んで、様々なデザインの住宅をつくります。仮に建築家が理屈としては機能を損ねかねないデザインをしたとしても、それに意味があると判断すれば、今度は機能を守りながらそのデザインを実現すべく対策を工夫します。例えば庇がない場合、防水対策はサッシ周りの納まりで、劣化対策はコーキング以外の止水工事で工夫します。南や西に大きな窓をとる場合は、日射対策として深い庇や外付けブラインドをつけることもあります。

 

強いブランドはデザインに意味がある

 先日、身内へのプレゼント用としてルイ・ヴィトンの財布を買いに行ったのですが、趣旨を説明すると定番のモノグラムに桜のイラストを加えたものをすすめられました。一見華やかで、デザイン最優先のように見えた柄でしたが、色にも形にもすべてに意味があることを説明されました。

 この場合の「意味」とは、ブランドとしてデザインに物語を持っているということです。売り手はそのことをきちんと説明でき、モノとしての完成度も当然高い。だから手にしたユーザーは誇らしく、他者にその意味を語りたくなる。私はヴィトンユーザーではありませんが、話を聞いてこのブランドの価値と強さを理解しました。何となくつくったデザインに高いエクストラコストを払う人はいませんから。

 住宅のデザインに置き換えると、「意味(=物語)」は機能です。そして、美しさも機能の一部です。理想はデザイン自体に機能性を持たせることです。

 

「使いやすくて美しい」がベネフィットに

 住宅はまず、「使いやすく・美しく」を考えるべきです。なぜなら、人が新しいモノをほしがるのは、古いモノが壊れたか、飽きたときだからです。住宅を長く使ってもらうためには、飽きない、壊れない、メンテ費用がかかり過ぎないことがカギになります。

 壊れないための性能は、耐震・防水・断熱などの各種数値で表すことができますが、飽きないためにはデザインの耐久性を担保してあげる必要があります。安直な○○風ではロングライフに耐え切れません。そっけなくとも形に意味のあるものは、やはり長く使えるのです。「そのデザインに意味はあるのか」を自問自答する家づくりが、ユーザーのベネフィットに直結するのです。

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