高性能住宅に取り組む際の心得。

2018/11/3016:3323人が見ました

前回、「意味のあるデザイン」がブランドになると説明しましたが、それを支えるのはやはり技術力です。工務店にとって、高性能住宅は避けては通れない必須課題です。

 

 私は、住宅には「安心・安全・健康・快適・美しく・長持ち」という6つの要素すべてが必要であると考えています。前者4つを満たすためには性能、つまりつくり手の技術力が欠かせません。高性能住宅は、きちんとつくれば次のようなメリットがあります。

●省エネルギーで、冬暖かく夏涼しく快適

●部屋間の温度差が少ない(ヒートショックが起きにくい)

●疾病リスクが下がる

●結露やコールドドラフトが起きにくい

●カビやダニが発生しにくく、花粉・ホコリが侵入しにくい

 

●防音効果が高い

 

高性能住宅にはリスクもある

 ただし、高気密・高断熱をはじめとする高性能住宅をつくるには、それなりの勉強が必要です。もしこれまで、現行基準をぎりぎりクリアする程度の住宅しかつくったことがない、C値もQ値も測ったことがないのであれば、それまでの常識はいったん捨てるくらいの覚悟をして臨んで下さい。

 なぜここまで言うのか。私自身、いろいろ痛い思いをして学んだからです。まず、高性能住宅は「諸刃の剣」であり、間違った施工や使い方をするとむしろ危険なこともあります。住宅業界内では北海道における壁体内結露との戦いは有名ですが、温暖な地域ではいまだに「夏を旨とすべし」で、断熱性能を重視しない工務店・ユーザーは少なくありません。

 そして昔からの工務店、ベテラン職人ほど、過去の経験から誤った施工をしがちだというリスクがあります。不適切な施工であっても決定的なダメージが表に現れるには時間がかかり、危険性が実感されにくいという問題もはらんでいます。

 

身につけたいのは知識+技術力+住まい方提案

 2009 年4月に施行された改正省エネ法により、C値に関する基準が除外されたのも結構危険なことです。設計でいかに通風に気を配っても、常に窓を開けてはいられません。気密が取れなければ適切な換気ができるわけもなく、屋内の空気が停滞し、冷暖房機器に負荷がかかり、温度ムラがでます。

 また、壁体内への漏気は結露を引き起こして家の寿命を縮め、住む人の健康を損なう危険性があります。

 要するにいい加減な断熱はダメ、断熱が十分でも気密が取れていなければダメ。両方完璧でも温暖な地域で南側に日よけのない大開口があると、日射取得量が大きすぎて「高性能ゆえに不快」という状況が発生します。せっかく費用をかけて性能を上げたのに、それならしない方がマシだったということになってしまいます。

 ですから高性能住宅に取り組む場合は、知識とそれを踏まえた技術に加えてユーザーへの適切な住まい方の指導まで準備しておく必要があるのです。私自身、高気密・高断熱住宅をつくり続け、お客様には申し訳ない話ですが、思いもよらないさまざまなクレームを処理していくなかで生きた知恵を学びました。住宅に求められる要求水準はどんどん上がっていますし、技術も進歩しています。問題に対処しながら対策を立て、改善しシステム化する。この繰り返しが不可欠です。

 

マニュアル嫌いで自己流は生き残れない

 いま私が運営している住宅FC の1つでは、高性能住宅の設計・施工にいくつかのルールを設けることで、初めて取り組む工務店・職人でも講習を受け、マニュアル通りにやれば間違いのない施工ができるようにしています。

 そこで痛感するのは、ベテラン職人ほどマニュアルを読まないということ。「昔はそんなものなかったから」と頭から否定する人、「やってみたがダメだった」という人など様々ですが、たいていの場合、それまでの経験で勝手に工事しているのです。諸外国と日本とを比較して湿度や四季の違い、そもそもの暮らし方の違いを持ち出して「外国に合わせる必要などない」と主張する人も。でもそれは、技術を進歩させない理由にはなりません。どんな条件だろうと、人は常により快適なほうを目指すのです。

 ユーザーはどんどん進化して賢くなっています。説明会を開いても、10 数年前に始めたときとは反応が全然違います。メモを取りながら真剣に聞いて「そんなこと初めて知った」ではなく、「自分なりに調べたけど理解できなかった部分が分かった」という反応です。彼らは補助金などについてもあらかじめよく調べています。

 

変わる勇気が必要だ

 問題は変わろうとしない工務店の側にあります。国は2020年までに、標準的な新築住宅をZEHにするとの目標を掲げています。つまり、一定の性能レベルを確保できないつくり手は市場から退場すべき、と足切りを決定したのです。あと4年もありません。「いまさら新しい工法なんて覚えられない」では本当に崖っぷちです。最新の正しい知識と技術力を身につけるには、勉強して現場で実際にやってみるしかありませんが、自力で間に合わなければFC加入という手段もあります。その際は、以下の条件を考慮して検討することをお勧めします。

●ZEHの2030年基準をクリアする性能が担保されている

● 理解するのとその通り行動できるのは別。行動にまで落とし込んだ教育システムがある

●個々のスキルに左右されないマニュアルがある

●技術だけでなく売り方もセットで提案している

 私がFCを運営するなかで一番重要だと思っているのは、ノウハウを固めてしまわないことです。性能も環境も進化しているのですから、じっとしていてはどこかが陳腐化する。真面目にやるほど、内容は細かく変化して当然なのです。

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