自然素材でつくるのがいい家なのか? 最先端の技術を使うのがいい家なのか? このあたりをきちんと整理し直す必要がありそうです。いまつくっている家が未来を決めます。
住宅に使う素材は「外から見えるもの」「外から見えないもの」で分けて考える必要があります。
まず「外から見えるもの」については、昔からあるローテク素材を新しい技術で使うのが正解です。何十年と使い続ける住宅はメンテナンスが必須であり、長期のメンテナンスに耐えうるのは原則ローテク素材のものだからです。
壁内部は「携帯電話と同じ」と考える
では「外から見えないもの」はどうでしょうか。後から変更が困難な壁内部や構造部分に関しては、携帯電話やパソコンと同様「進化する機械」と捉えるべきです。携帯電話やパソコンのように比較的短いスパンで使えなくなってしまうモノは世の中にはいっぱいあります。物質的にどんなに美しさを保っていたとしても、機能が時代に追いつかなくなった時点でモノとしての寿命は終わります。住宅の構造部分は、わりと速いスピードで進化するため、常に「その時点での最先端」を求める必要があります。
ローテク素材・ハイテク素材とは?
ここで言う「ローテク」とは、自然素材・自然由来のものを指します。代表は木材。それから大理石や御影石などの石、レンガ、漆喰、土、アルミや鉄、ガルバリウム。
一方「ハイテク」の建材は無数にありますが、石油由来の加工品が多くなります。それらはある目的に特化してつくられるので、安価で大量に生産できて、施工も利用も手間要らず。ただ、耐用年数が設定されていて、経年劣化すると復旧が難しいものが少なくありません。
新建材が良くないと言いたいのではありません。アップル社のMacLC Ⅲやソニーのバイオ初期型など、かつてパソコンでも質感のいい美しいマシンがいくつもありました。でも20年、30年も前のパソコンは今となっては実用に耐えない「メカニカルな骨董品」です。
機能最優先で劣化のスピードが速いものに美しさを求めるなら、エクストラコストが必要です。そのようなコストをかけられる人はごく少数ですから、適切なものづくりをするなら一般的に想定された目的と使用期間に耐えうるレベルの材料を使うべきでしょう。
壁内部は「2ランク上」を目指そう
住宅は、人の一生を超えるほど耐用年数が長いものです。住宅の寿命については諸説ありますが、日本建築学会のデータによると、日本は30年、アメリカは103年、ドイツは79年、イギリスは141年とされています。
繰り返しますが、経年劣化に対してメンテナンスができない部材を使うのは、そもそも間違っています。そして、日々のメンテが不要な壁の中は、可能な限り「その時点での最先端」を採用すべきです。住まい手から特別な要請がなくても、性能に関しては現行の法律ギリギリ満たすものではなく、その2ランク上をつくるのがプロの仕事だと思います。
住み心地をハイテクで担保する
なぜならユーザーにQOL(=生活の質)を担保してあげる必要があるからです。ガマンを強いるのはいけません。ガマンしなければ暮らせない家は、住まい手が見放します。
今の日本でエアコンなしで快適な生活を送ることは可能でしょうか。東京の夏の気温上昇は100年単位で2℃程度ですが、26℃と28℃の違いは大きいうえ、真夏日・猛暑日は確実に増加しています。「昔はクーラーがなくても過ごせた」と言う人がいますが、とりまく環境も、エネルギー使用量も昔とは違います。今当たり前のようにあるシステムキッチンやバス、水洗トイレが普及したのは、せいぜいこの50年のこと。
普通の人は50年前の生活に戻ったりはしませんから、住宅の性能は最先端であるべきなのです。今最先端なら、後何十年かは「メカニカルな骨董品」にはなりません。
ファスト思考の家づくりには未来がない
いつも言っていることですが、ユーザーが欲しがるものをそのままつくってはいけません。ファスト思考でつくられた住宅は、メンテナンスができない、メンテナンスに値しないことが大半です。
欧米では個人の建物もインフラの一部、社会資本と捉えられており、性能に対して国が思い切り口を出し、国民もそれを是としています。一方、日本の住宅は個人資産として扱われるため長期間使い回しのできるインフラになりにくく、資産としても脆弱です。
私たち工務店は、この現状を変えることができるはずです。住まい手にも、社会にも、つまり将来の自分にも損をさせない家づくりをする。そういう大きな視点が必要です。家づくりを単なる商売としてやっているなら、私の言うことなど聞かなくてかまいません。でも地域で真剣に家守りを続ける気があるなら耳を傾けてほしいのです。
信念がブランドをつくる
将来まで責任がもてる仕事をする。そういう大きな骨格をもつ思想が、地域工務店のブランドになります。ブランドとはその会社の信念そのものです。そして、家づくりに関わる人皆が満足し、その満足が継続する「三方良し」の関係も信念が原点となります。
今私たちがつくっているものが未来を決めているのです。長期的な視点を持てない工務店も少なくありませんが、現実はそれを許してくれません。半世紀、1世紀もつ住まいをつくる会社にしたいのなら、つくるモノを変えましょう。