ブランドは一度立ち上げたら維持しなくてはなりません。一方で、市場には新しい技術・価値観・ユーザーが次々に流れ込んできます。その変化にどう対応すればいいでしょうか。
家づくりシステムを徹底的に合理化してみた
かつて住宅業界、というより家づくりにおいては、わかりやすい「商品」は必要ありませんでした。なぜならユーザーとつくり手に共通認識と常識があったからです。家が建てるものから買うものになる過程で、それらは失われていきつつあります。
そうしたなか当社は昨年、品質を担保したうえで合理化を図り、ユーザーを迷わせないようパッケージングした、「商品」としての家づくりシステムを立ち上げました。
ユーザーの変化はとても速い
結果としてそれは何の抵抗もなく市場に受け入れられています。住宅展示場はおろか、大規模な宣伝もしていません。入社半年の女性社員に定型化したマニュアルを渡して営業をやらせてみたところ、売れているのです。我ながらありえないと思いました。
具体的な数字を挙げると、営業をはじめて半年で5棟の受注です。現場も同様で、就職して半年の社員が現場監督をこなしています。もちろんそうできるように仕組みをつくったのですが、張本人である私がビックリしています。
お伝えしたいのは自分の予想が当たったことではなく、状況の変化の速さです。これまでの経緯から、方向性が正しくても受け入れられるまでには何らかの抵抗があるだろうと予想していました。ところが、ユーザーからの抵抗はまったくありませんでした。
ニーズの変化、市場の変化がものすごく速いことを身をもって経験しているのです。
「新築しない二世帯住宅」という新しいニーズ
それよりも前に当社が始めた断熱リフォーム事業についても、予想もしなかったニーズがありました。
当初は、子育てが済み、広さをもて余した古びた家の必要な部分にだけ手を入れて「快適な終の住処」として使い切る、というリタイア世代のニーズを見込んでいました。ところがふたを開けてみるとそうしたニーズは3分の1程度で、残りは二世帯・三世帯住宅へのリフォームだったのです。
これを機に、私のなかには「二世帯住宅は新築がメイン」という思い込みがあったことに気づかされました。二世帯で同居するにしても、古い家を全部建て替えるのではなく、「必要な部分だけリフォームして親子・祖父母で一緒に住む」というニーズがいつの間にか増えていることがわかったのです。かつてと違う「新築しない二世帯住宅」の誕生です。
賢い選択をするユーザーが増えた
一番の理由はコストです。ひとつの家に複数の世帯があっても、生活の基盤となる設備のための費用およびランニングコストはあまり変わりません。人はお金がなければ集まって住むようになるのです。若年層の世帯年収の減り方から見て、そのようなニーズが今後も増えることが予測できます。
一方、地方でひとりっ子同士が結婚すると、1人で複数の不動産を相続するケースがあります。そして先の二世帯同居と同様、親から相続した家の1つに家族で住もうとなったときに、新築・建て替えではなくリフォームを選択する人が増えています。古い家とはいってもワンオーナーで築30年前後、不便はあってもまだまだ使える家です。新築なら2500万円かかるところが1500万円で済む。ならばリフォームでいい。使える家は延命して、その分可処分所得を増やして生活を豊かにしようとする層がようやく出てきました。
ユーザーは確実に賢くなっているのです。
ニーズは合っても「商品」にしないと売れない
その一方で、興味深いことに断熱関連の「商材」はあまり伸びていません。これはモノ単体ではニーズに合致していたとしても、分かりやすく扱いやすい「商品」になっておらず、窓・床・壁・扉それぞれが別のパーツとして捉えられているからだと思います。これらを組み合わせて使いこなすには、まだハードルが高いのでしょう。
たとえるなら、腕の良い演奏家がいても指揮者がいなければオーケストラとして演奏できないようなもの。ニーズを正しくとらえることができても、市場に受け入れられる形・仕組みにしなければスルーされてしまうのです。
10年後のユーザーに対応する仕組みが必要だ
変化は思ったより早く訪れます。だから「変えなくてはいけない」と気づいたことは、急いで変える必要があります。自分の気づきをタイミングを逃さずに、目に見える商品に変えていくのです。私自身、技術者や発明家ではありませんので、この世になかったまったく新しいものを生み出すわけではありません。技術の進化に追従しながら、既存のものを組み合わせて新しい価値をつくるのです。そして、真っ先に進化できたところが勝者になります。
ユーザーの変化のタイミングを見極めるのは難しいことです。では、こう考えてはどうでしょうか? いま28歳のユーザーは10年前には高校生だった、と。つまり10年後のユーザーはいま高校生です。高校生くらいならば、ある程度、世代としての指向性はつかめるはずです。10年後のユーザーに売れる新築住宅をつくるためには、いまの高校生に売れる仕組みをつくる必要があるということがわかってきます。
リフォーム事業も同様です。より一層、親世代の住宅ストックで賢く豊かに過ごそうとするであろう彼らは、10年後どんなサービスを求めているでしょうか。