[第8回] 地域工務店の経営戦略の実例③「多角化・エリア進出」

2021/08/2017:37827人が見ました

 ソルト(SOLT.)の青木隆行です。今回も「地域工務店ならではの立てよう!」の実例シリーズとして、「多角化・エリア進出」について、私自身の経験も踏まえてお伝えします。

前回]地域工務店ならではの経営戦略を立てよう!②

 さっそくですが今回の内容をスタートするためのポイントです。

POINT】成長戦略はまず『既存商品・新規市場』か『既存市場・新規事業』のいずれかを選択

 

成長戦略を描く前に、KPI(指標)を決めよう

 地域工務店の多くは、年間施工棟数が安定的に30棟を超えてくると『余剰資金』が生まれやすくなります。

 注文住宅メインの事業形態は、実際に工事に着手していなくても入金があると思います。契約時・着工時・上棟時・完工時と、お施主様からの入金ポイントがいくつかあるので、受注が安定していれば支払いの前に入金があるので運転資金があまり必要なく、自ずと手許現金が増えてきます。(もちろん取引業者との支払い条件などによっては、運転資金が必要な場合もあります)。

地域密着をうたっている地域工務店は、月商の3か月分程度の手許現金を持っておく必要があると考えています。地域での信頼を得て仕事をするには信用力(与信力)が必要となり、それなりの財務基盤が必要であるからです。

仮に売上高10億円(年間施工棟数40~50棟)の地域工務店は2.5億円の手許現金を持つべきだという話になりますが、これはそこまで難しい事ではありません。安定受注体制を確保しながら相応の収益性(原価のなかに人件費を入れず30%の粗利確保)を維持しながら10年以上事業を継続すれば、地域からの信頼と共に資金力がついてきます。

地域工務店は資金回収効率が良いので、適正な利益率確保・工事平準化を徹底しておけば長期的にも資金繰りは非常に良くなります。(ちなみに自分が工務店経営者時代のKPI指標は『自己資本比率50%・流動比率200%以上・営業利益率5%』でした)。

上場企業は情報開示が必須ですが、それと同様に、地域に根差す工務店は自社の決算書を見せられる位の健全性が必要だと思います。

 資金力がつき財務体質が強化され資金的に余裕が出てくると、成長戦略を描きやすくなります。

 

地域工務店が選択できる成長戦略とは?

 では地域工務店においてはどのような成長戦略があるでしょうか?

 下記のような成長戦略があると考えます。

  1.注文住宅から分譲住宅をスタート

 2.不動産・リフォーム事業・インテリア事業など隣接する事業への多角化

 3.飲食事業・介護福祉事業など異業種への多角化

 4.注文住宅事業のエリア進出

 5.多角化した事業(上記1~3)のエリア進出

 6.M&A

 大別すると、『特定の商品を複数エリアで展開する』『複数の商品を特定のエリアで展開する』そして『複数の商品を複数エリアで展開する』という事になります。

 当然ながら成長戦略にはリスクも伴います。多店舗展開をすると最初はエリア認知度が低く営業力も分散するので効率的な営業が出来ないことも多く固定費も嵩みます。また新規事業を立ち上げる際には、社内でのコンセンサスが取れるか・シナジー効果が期待できるかなどの課題も出てくるでしょう。何より事業責任者が必要になります。

 自分の場合、工務店経営者時代に『不動産事業』『リフォーム事業』『カフェ事業』『インテリア事業』『学習塾事業』『食品物販事業』『デイサービス事業』などを手掛けました。

 営業エリアは住宅事業で同一県内3拠点、新規事業は九州一円としました。ここで学んだことは、既存事業に隣接する事業はシナジー効果を生みやすく、逆に新規事業を新規エリアで展開するのは非常に難易度が高いという事です。

 下記の『アンゾフの成長マトリクス』でいうと「2コマずらす」と難易度がとても高くなるのです。

 

新規事業を成功させるポイントとは?

 地域工務店が他業態に参入したり、他のエリアに進出するケースは多くあります。これには賛成も反対もしません。成長戦略のひとつとして当たり前に考えられることだからです。

 しかし、事業を成功させるのは戦略ではなく人です。私が思う『事業を成長させる人の共通点』は持続性のある人・穏やか・判断が明確・そして何より誠実な人。資金的に余裕が出来たから何かをするという話ではなく、経営の本質を理解して財務の健全性を確保しながら、人財育成と共に成長戦略を描くことが重要だと思います。

  

POINT】成長戦略は一コマずらし。

 

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