「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~「設計 ①」~

2022/01/2709:04285人が見ました

こんにちは。

ひと・住まい研究所の辻󠄀です。

前回から久しぶりの投稿となりますが、連載11回目の今回は、住まいの具体を企画・計画する「設計工程」についてまとめてみたいと思います。

前回同様、下に「つくるプロセス」の全体フローの事例を再掲します。

「設計工程」を、上記のフロー例では3つの小工程に分けています(4~6)。それぞれの小工程への注力する度合いなどの違いはあっても、ほとんどの会社がこのような流れで進めていると思います。

今回も前回と同じく小工程ごとに、その具体的な中身やポイントなどを中心に解説していきますので、一例として参考にしてください。

なお、過去の記事のリンク先も掲載しておきますので、ぜひお読みください。

・連載①コロナ禍の今だからこそ、工務店としての軸をつくる

・連載②コロナ禍の今だからこそ、工務店としての軸をつくる②

・連載③工務店における「つくるプロセス=生産工程」のあり方

・連載④「つくるプロセス」は、顧客に選ばれるための重要なコンテンツとなる

・連載⑤自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順①

・連載⑥自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順②

・連載⑦自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順③

・連載⑧「つくるプロセス」を深める2つの存在

・連載⑨「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~「1.集客」~

・連載⑩「つくるプロセス=生産工程」の具体 「2.初回接客~」

 

4.家づくり前準備

これから始まる家づくりについて事前説明を行う「スタートの同意を確認する工程」という位置付けです。住まいの具体的な企画・計画作業(設計)に移る前に、自社の家づくりの「実際」を改めてじっくりと認識してもらい、後々思い違いなどが生じないようにしておくことが主な目的となります。

一見手間のかかる工程かもしれませんが、こうした双方の認識を共有する作業は、特にオーダーメイド商品においては大切なことであり、その後の「顧客満足度」に少なからず影響を与えることになります。また顧客にとってスタートへの意識が高まるので、なんとなくプラン作成などが始まってしまうよりも本気度が増しますし、工務店においては、ある意味、顧客選別の意味合いもあります。

この工程を設計の工程と捉えるか、営業工程の延長と捉えるかは意見が分かれるところだと思いますが、設計の工程とした方が「モノづくり」との関連性をより意識して向かうことになると思うので、私は適切だと思っています。

次にいくつかの作業項目ごとに分けて、ポイントなどをまとめてみます。

 

① 個別面談

・本工程の中心となる作業項目。

・家づくり全体の流れに始まり、各工程の役割や作業項目および手順など、「つくるプロセス=生産工程」そのものを説明することが重要。この時点で競合先がいる場合においては、この説明自体が以前から述べているように「選ばれる」ためのキラーコンテンツとなり得る。

・上記の内容に加えて自社の標準的な仕様や予算のこと、家づくりのスケジュールや必要となる経費や支払い条件など、家づくり全般に関する情報も共有しておきたい。

 

② 住宅資金計画

・あくまでも顧客に適正な建築予算を把握してもらうことを目的としたい。

・単なる住宅ローンのアドバイスだけでなく、「ロングライフ」をベースとした資金計画書が作成できるとベスト。専門のFPと連携してもよい。

 

③ 建設候補地に対する購入相談(土地なし客への対応)

・「建設候補地への購入アドバイス」への顧客ニーズは高いはずなので、自社の標準的な作業項目として設定し、その重要性をアピールしたい。

・住宅建築に関する一般的なアドバイスに加え、年間を通した日当たりの状況を「日照シミュレーション」で示し、想定される大まかな配置計画まで踏み込めると、競合対策として抜群の効果を発揮する。

 

 

5.基本プラン

住まいの方向性や基本となる「カタチ」を企画する工程です。フルオーダーの注文住宅の設計施工を依頼しようとしている顧客であれば、特に重要視する工程の1つでしょう。

よって「つくるプロセス」そのものが商品であると今まで述べてきましたが、その意識を特に強く持つ必要性のある工程であり、この工程の中身を精査することは、自社の商品の「売り」として訴求しやすくなると言えます。

下に本工程における、一般的な作業項目を掲載しておきます。

設計施工一体型の工務店にとって、上記の作業項目の内容を考える際、以前にも述べたように(連載⑤ https://chikalab.net/articles/739)、下記の3つの視点を意識することが特に重要になります。

① 自社が目指す「いい家」をカタチづくれるか

② 顧客に満足してもらえるか、喜んでもらえるか

③ 自社の家づくりコンセプトを体現できているか

この視点をいかに実際の作業内容に組込めるかがポイントであり、特に①について妥協することは許されません。こうした姿勢は各作業項目の目的や内容を改めて考えて直す良い機会になると思いますし、設計における「生産工程」の質を上げることになるでしょう。

ではここからは上記の作業項目ごとのポイントをまとめてみたいと思います。

 

① 建設地調査

・一般的な調査項目(面積・高低差・法令・ライフライン・施工上の留意点など)に加え、建設地に影響を及ぼす隣家の状況や周辺環境も、出来るだけ詳細に把握しておきたい。

・調査費用を有料化してでも調査の精度にはこだわりたいところ。また可能であれば、この時点で地盤調査を実施できるとなお良い。

・必要な調査項目や注意点などを記述した社内用のチェックシートを準備しておきたい。

 

② ヒアリング

・専用のヒアリングシートなどを活用して、施主の家族情報、予算、住まいや暮らしに対する要望など漏れなく聞き取り記録する。

・施主の自宅で実施した方が、その「暮らしぶり」を把握できるというメリットがある。

・専用のシートに施主自ら記述してもらう形式もあるが、「要望の優先順位が見えにくくなる」ことが最大の欠点。その場合、対面型のインタビュー形式の併用をお勧めしたい。

・単なる要望の聞き取りに終始するのではなく、施主の様々な要望に対して適切に整理整頓し、その優先順位を明確にすることがとても重要。そうすることで施主の信頼度が高まるとともに、その後の設計作業の出戻りも少なくなる。

 

③ プランニング

<プランニングの手順例>

・近隣環境を落とし込んだ現況図を作成する

      ↓

・年間(最低でも夏・冬)を通した敷地の日照シミュレーションを行い、「日当たり」の状況を把握する

      ↓

・「日当たり」の状況や近隣環境を踏まえ、敷地全体のゾーニングを検討する

      ↓

・上記の内容を基にして「建物内のゾーニング(大まかな間取り)」を検討し、詳細を詰めていく

上記の手順のポイントは、建物の外側の環境をちゃんと把握して、その良いところはできるだけ取り入れ、悪いところは排除して、最初にしっかりと敷地全体の方向性(各要素の配置)を検討することにあります。

これは根拠のあるプランのベースをつくる、とても重要な作業となります。単に敷地に合わせて建物(間取り)をはめ込むような方法は避けたいところです。

なおパッシブデザインに取組もうとする場合にはこの手順が必須となります。以前の記事(連載⑧ https://chikalab.net/articles/857)で取り上げていますので、ご覧ください。

 

④ ファーストプレゼン

・プランの方向性(敷地全体の配置及び建物のゾーニング)は、プロとして「1発で決める意気込み」で向かう姿勢が必要であり、そのことが良い結果に繋がる。

先のプランニングで検討したプロセスに従ってプレゼンすることをお勧めしたい。施主にどのように考えてこのプランになったのか、その理由や根拠を的確に伝えやすい。

<ファーストプランの手順例>

・近隣環境を現況図にて説明する

     ↓

・日照シミュレーションの結果を示し、敷地の「日当たり」の状況を説明する

     ↓

・配置図(近隣建物及び敷地全体を描いたもの)にて、建物等の配置計画の意図を説明する

     ↓

・上記の配置計画に納得してもらってから、建物のプラン図(平面・立面・断面など)を示し、その意図を説明する

 

⑤ 基本プラン完成

・ファーストプレゼンで「プランの方向性」の合意が得られたら、建物などの詳細を詰めていき、プランを成熟させていく。

・この段階において、自社の目指す「いい家」を実現するための設計ルールや基準などを設定しておきたい。

・施主から基本プラン内容の合意が得られたら、予算確認を目的とした「概算見積書」を作成して、予算面の合意を得ておく。

・基本プラン及び予算の合意が得られたら、実施設計の申込(設計監理契約も含む)をもらい、実施設計の着手金(後の工事金額の一部先行払いという位置付けが妥当)を施主からいただきたいところ。

 

今回の記事は、ここまでです。

次回は設計工程の残りの「6.実施設計」について、まとめてみたいと思います。

 

一覧へ戻る