「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~「設計②」~

2022/05/0909:37239人が見ました

こんにちは。

ひと・住まい研究所の辻󠄀です。

連載12回目となる今回は、前回の「設計工程」の残りの工程である「実施設計」について、まとめてみたいと思います。

前回から少し間が空いてしまったので、過去の記事のリンク先を掲載しておきます。ぜひ併せてお読みください。

・連載①コロナ禍の今だからこそ、工務店としての軸をつくる

・連載②コロナ禍の今だからこそ、工務店としての軸をつくる②

・連載③工務店における「つくるプロセス=生産工程」のあり方

・連載④「つくるプロセス」は、顧客に選ばれるための重要なコンテンツとなる

・連載⑤自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順①

・連載⑥自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順②

・連載⑦自社スタイルの核となる「つくるプロセス」を確立する手順③

・連載⑧「つくるプロセス」を深める2つの存在

・連載⑨「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~「1.集客」~

・連載⑩「つくるプロセス=生産工程」の具体 「2.初回接客~」

・連載⑪「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~「設計①」~

 

 

6.実施設計

「5.基本プラン」の工程で作成した計画を、実際の「カタチ」にするべく、詳細に渡りまとめ上げる工程という位置付けです。

私の経験上、この「実施設計」に費やす時間や作業内容はそれぞれの工務店で異なり、そのばらつきが最も大きくなる工程であると言えます。

その要因の1つとして、工事請負契約の時期が影響していると思います。大きく分けると、先の工程である「基本プラン」の直後に締結する場合と、「実施設計」完了後に締結する場合の2パターンがあると思います。

前者のパターンは、間取りと大まかな仕様が決定した段階で行われるので(詳細な打合せを残した段階で)、大手のハウスメーカーやビルダーのような比較的自由度が低い「セミオーダーの注文住宅」を扱っている会社に多く見受けられます。一方で後者のパターンは、地域工務店が主力としている「フルオーダーの注文住宅」を扱っている会社が多数を占めていると思います。

どちらのパターンであっても、設定した時期に対する理由付けが明確であれば構わないと思いますが、後者の方が「フルオーダーの注文住宅」を扱っている工務店にはより適切だと思います。

「実施設計」の工程は、計画の質を深めるとても重要な役割を担っています。しかし、前者のように工事請負契約が先行してしまうと、詳細を詰めていく過程(実施設計)において、よりよい提案が出てきたとしても、自ら変更提案をすることにブレーキを掛けてしまいがちです。つまりある一定の合意をした後だと、どうしても消化作業的な意味合いが強くなってしまうということです。

というわけで、ここでは実施設計の後で行うことを前提としてまとめていきたいと思います。

 

作業項目とポイント

今までと同様に、本工程の作業項目(小工程)の一例と、そのポイントを示します。

●基本プランを図面化するだけの流れ作業ではない

基本プランを多面的な視点で検討し、計画を熟成させていく作業だという意識を持ちたいところです。そしてその意識を具体的な手順や作業内容にまで落とし込み、整理しておくことが重要なポイントとなります。

●施主参加の意識を高める

実施設計は、専門的で細かな内容になってしまうもの。「専門的なことは施主には分からないので、詳しい説明はしていない。」ということを工務店さんから聞く場合があります。確かにそうかもしれませんが、専門的なことをいかに分かりやすく説明できるかは、プロとして大切なスキルの1つです。また興味を持ってもらえるように工夫することは、顧客満足度にも関わる重要なポイントです。

ではここからは上記の作業項目ごとのポイントをまとめていきます。

 

①設計申込

・実施設計に関する作業内容などを施主に説明し共有する。この段階で設計申込金として、設計業務に係る費用を施主に負担してもらえるとよい(請負金額の一部を前払いしてもらう)。

・実施設計の工程表を作成し、施主に提示する。工程表には打合せする項目やスケジュールなどを明記し、その内容を丁寧に説明したい。

 

②各種調査

・実施設計に必要となる各種調査(地盤調査など)は、出戻りの作業が生じないように、出来る限り早い段階で実施しておく。

・建替えの場合、既存宅の解体工事は、敷地に対する詳細把握のためにもこの段階で実施できるとベスト。

 

③設計図書の作成

・作図の段階ごとで施主との打合せを設定し、図面内容をちゃんと共有できることを常に心掛ける。

・「いい家」のベースとなる基本性能(構造・外皮性能など)は、計算プログラムやシミュレーションなどで定量的に確認したい。その作業は申請業務用の「こなす」ものではなく、設計を精査する作業と認識する。

・変更要望などにより工事金額の増減が見込まれる場合は、その都度、概算の金額を伝えておくことが重要。予算超過による設計の出戻りを防ぐ術となる(実施設計の前に概算見積書を提示している場合)。

・設計図書に反映できない施主からの要望(施工時の留意点など)は、打合せ議事録として漏れなく記録し、社内共有を徹底する。

・施主にとってはある意味決断の連続となるため、このタイミングでの自社オーナー宅訪問はとても有効。オーナーの暮らしぶりを知ることで決断のヒントを得ることができるし、オーナー同士の自然なコミュニティづくりにも繋がる。

 

作成する設計図書やそこに描き込まれている情報などは、工務店によって実に様々です。下に「フルオーダーの注文住宅」において作成しておきたい設計図書の内訳と手順の例をあげておきますので、参考にしてください。

●設計図書の作成手順と内訳の例

①配置、間取りの確定

 →配置図・平面詳細図・立面図

②構造の確定

 →構造計算・基礎伏図・木伏図

③空間の確定

 →断面図(矩計図)・展開図・建具図・造作家具図・各室内3Dパース(可能ならば)

④温熱/省エネ性能の確定

 →外皮性能計算・温熱シミュレーション(可能ならば)

⑤設備の確定

 →電気設備図(プロット図)・給排水設備図・空調設備図

⑥仕上げ、仕様の確定

 →内外部仕上げ表・仕様書

⑦外廻りの確定

 →外構図・造園図

 

④工事金額の確定

・設計図書の内容を反映した正式な見積書を作成し、施主に提示する。先の「基本プラン」工程で、概算見積書を提示している場合は、その整合性や増減項目を明確にして、見積金額の透明性を訴求したい。

・概算見積書の積算精度が高ければ、予算超過などへの対応に苦慮する必要がなくなるため、スムーズに次工程へ移行できる。

 

今回の記事はここまでです。

次回からは、「施工」に関するプロセスについて、まとめてみたいと思います。

 

●冊子「地域工務店的生産工程の確立」 希望者へ引き続き進呈します

2年以上前になりますが、私が書き下ろした上記の冊子を希望者へ進呈します。このチカラボの連載記事の基になっているものです。以前の記事で掲載していたことがあったので、今でも多くの方から問合せをいただいています。希望される方は引き続き進呈させていただきますので、必要事項をご記入の上、下記のメールアドレスまでお送りください。

メールアドレス:tsuji@h-h-l.net

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